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本日の猫たち #352(ストルガツキーと『吾輩は猫である』の話)
今日は暑かったですね……。日中30℃をこえると、飼い主はもうバテバテです。暑くなると猫たちは風通しのよい、高いところに移動し、くつろぎます。
先住猫はひんやりとしたキャットウォークの上へ。
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妹猫も風通しの良い、キャットタワー最上段へ。
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ただ、なぜか我が家で一番暑そうな、毛皮を着た兄猫は窓際で日光浴……。
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暑かろうと抱っこして、涼しい場所に移しても、しばらくすると自分から窓際に移動します。
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兄猫に移動してもらおうと掃除機をかけても、動いてくれません。猫は掃除機の音をいやがって逃げるものだと思うのですが……。
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猫たちは猫らしくマイペース。
飼い主は今日もまた仕事のあいまに読書と翻訳です。
旧社会主義国出身の友人たちにキル・ブルィチョフのSF小説を読んでいるという話をしたら「ソ連時代のSF小説の最高峰はストルガツキー兄弟だ!」と言われたので、次に読む本が決まりました。
ストルガツキー兄弟の名を久しぶりに聞いて思い出したことがあるので、ストルガツキー兄弟と夏目漱石の『吾輩は猫である』(ロシア語翻訳)についてちょっと語ります。興味がある方、下記読んでやってください。
興味がない方は、下の猫の写真までスクロールしてください。
ソ連映画、ソ連のSFがお好きな方なら、ストルガツキー兄弟の名前を聞いたことがあるのではないかと思います。
ソ連映画の大御所タルコフスキー監督の『ストーカー』の原作である『路傍のピクニック(Пикник на обочине)』の作者です。(……といっても、日本で知っている方は相当レアだと思います…)
あと有名なところでは『神様はつらい』(Трудно быть богом)という作品もゲルマン監督によって映画化されています(邦題『神々のたそがれ』)。
ソ連最高峰のSF作家であるストルガツキー兄弟ですが、わたしが最初にその名を知ったのは、日本文学の翻訳者としてです。
ストルガツキー兄弟のお兄さん(アルカージー)は日本文学の研究家でもあり、いろんな日本の作品をロシアに紹介しています。
今手元にないのですが、わたしが持っている夏目漱石、芥川龍之介、安部公房のロシア翻訳本が、ストルガツキー版でした。あとはストロガツキー兄には、源義経にまつわる作品もあります。
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源義経の名を、日本で知らない人は(たぶん)いないと思いますが(日本史にも出てきますし)、旧社会主義国でもストルガツキーの本を読んで、「ヨシツネ」を知った人は、ちらほらいました。
ソ連・ロシアの歴史、歴史的有名人の名をあげられる日本人がどのくらいいるか……ということを考えると、日本文学、日本史、日本文化の紹介や普及につとめたストルガツキーの功績は大きいと思います。
……実はここまでが前置きです(長いよ)。
このストルガツキー兄、夏目漱石の『吾輩は猫である』の翻訳もしています(コルシコフと共訳、1960年出版)。『吾輩は猫である』は世界各国で翻訳された名作ですので、ロシア語版があるのはおかしくはありません。問題はロシア語版のタイトルです。最初に聞いたときに本当に驚きました。
ちなみにわたしはロンドン漱石記念館(現在閉館…)に行ったことがあるのですが、そこの売店?で各国語の『吾輩は猫である』が販売されていて、英語版は『I AM A CAT』、スペイン語版は『SOY UN GATO』というように、原題と同じく、シンプルに「わたしはねこ」という意味のタイトルに訳出されていたのを覚えています。
ただロシア語版のタイトルは、ちょっとひと味違います。
まずは音を聞いてください。
『Ваш покорный слуга кот(日本語読:ヴァシュ パコルヌィ スルガー コット』
![](https://assets.st-note.com/img/1718105655106-kojTAYTSI4.png)
そしてその意味はというと――。
『あなたの従順なしもべ 猫』
ええええ、そんな話だったっけ?
最初に聞いたときは、本当に耳を疑いました。
ロシア語版の『吾輩は猫である』を読んだ人は、日本人に必ずこう話しかけてきます。
「夏目漱石の『あなたの従順なしもべ 猫』を読んだことあるよ。おもしろかった!」
えええ……タイトルと内容が乖離してない?
というか、猫が人間の従順なしもべたり得るのか?(逆じゃないの?)
『吾輩は猫である』をロシア語に訳すと、『Я ЕСТЬ КОТ』(わたしはねこである)。そのまま普通にタイトルにできるのに、なぜそんなタイトル名になったのか……。心からその謎を追いかけたいです……。
『吾輩は猫である』の有名な書き出しは、皆様ご存知だと思います。
そうです。タイトルをそっくり使った「吾輩は猫である、まだ名はない」です。
……ということは、ロシア語版ではもしや一行目から『あなたの従順なしもべ 猫』が出てくるのか……と思いきや、そうではありません。
参考までに軽く訳してみましたので、よかったら原文とロシア語版の違い、雰囲気を味わってください。
<原文>
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮にて食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
<ロシア語翻訳(拙訳)>
自己紹介させてください。わたしは猫です。ただの猫です。名前はまだありません。
わたしは自分がどこで生まれたのか、全く覚えていません。ただ暗く湿った隅でかなしげに鳴いていたことだけは覚えています。そしてわたしはそこで初めて人間を見ました。後にその少年はショセイという、人間の中でも最も残酷な種族であることを知りました。その少年たち(=ショセイ)は時々猫を捕まえて焼いて食べるという話です。しかし当時は自分がそんな危険にさらされているとは思いもしなかったので(直訳:まったく疑っていなかった)、あまり恐れてはいませんでした。
Позвольте представиться: я — кот, просто кот, у меня еще нет имени.
Я совершенно не помню, где родился. Помню только, как я жалобно мяукал в каком-то темном и сыром углу. Здесь же мне впервые довелось увидеть человека. Позже я узнал, что это был мальчишка — сёсэй[1], один из тех сёсэев, которые слывут самой жестокой разновидностью людского племени. Рассказывают, что эти мальчишки иногда ловят нас, кошек, зажаривают и едят. Но тогда я даже не подозревал, что мне грозит такая опасность, и поэтому не очень испугался.
ロシア語版の『吾輩は猫である』は、読者が物語に入りやすいように、猫がちゃんと自己紹介をしています。翻訳はざっくり合っています。
ほかにもいろいろ違いがあるのですが、わたしは文学者ではないですし、語りはじめると長くなるのでこのへんで。
ただ気になるロシア語版タイトルですが、『吾輩は猫である』のロシア語翻訳はいろんな人がやっているので、ストルガツキーとは別の人が名づけて、定着した可能性もあります。
日本でも外国映画の邦題が原題と違うことはよくあるので、なんらかの大人の事情があったのか、インパクトのあるタイトル(エキゾチックでロシア人受けする)をつけようとしたのか……。
(そこはまだ調べつくしていないので、ご存知の方、いらっしゃいましたら教えてやってください)
そういえば、博物館明治村に夏目漱石の住居と、そこに『吾輩は猫である』の猫ちゃんがいるので、興味のある方はぜひ行かれてみてください。
(現地で撮影してきた写真を貼りたかったのに見つからなかった…)
長々と綴ってしまいました。
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最後までご覧いただき、ありがとうございます。
気が向いたら、またのぞいてやってください。
暑くなりましたので、どうかご自愛ください。
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