砂かけのスペシャリスト
砂かけとは
猫と一緒に生活している方にはおなじみのことだが、猫はトイレ後に砂かけをする習慣がある。砂の入ったトイレで用を足した後、排泄物を砂で埋めるのだ。
その理由は科学的にはまだ解明されていないが、自然界で外敵に見つからないよう排泄物(自分)のにおいを隠しているというのが、通説となっている。
(猫のゴロゴロ音の仕組みも科学的には解明されておらず、実は猫には謎が多い)
妹猫は砂かけのスペシャリスト
砂かけをする・しない、上手・下手は個体差があるが、我が家の妹猫(現在8カ月)は砂かけのスペシャリストである。
我が家の歴代の猫の中でも、潔癖と言えるほどのきれい好きで、兄猫と共に保護されたとき(生後一カ月)から砂かけが得意だった。
兄猫も妹猫もお利口さんで、トイレの場所は一発で覚えた。二匹ともトイレ以外の場所で粗相をすることはなかったが、兄猫は「うぇーい」な性格で、なにか楽しいことが目の前で起きていたり、なにかに気をとられると、砂かけをせずにトイレから飛び出すことが多かった。
雄猫の中には排泄物のにおいで縄張りを主張するべく、あえて砂かけをしない子もいるそうだが、うちの兄猫の場合は、単純にかけ忘れのような気がする。
そんな感じの適当なことが大嫌いなのが潔癖な妹猫だ。
先住猫が大好きな妹猫は先住猫には甘え、可愛らしい顔を見せるが、基本は我が家の風紀委員長だ。
猫トイレのそばを通りかかった際、においを感知するやいなや、妹猫はトイレに飛び込み、
「なんでこんなことになっているの!」と、他猫(だいたい兄猫)の排泄物に砂をかける。
「もういいよ。大丈夫だよ。ありがとう」とスコップを手にした人間が止めても、妹猫は聞かない。職人気質な妹猫は、排泄物の形が完全に見えなくなり、においが完全になくなるまで、徹底的に砂かけをする。
その習慣は半年以上経った今でも続いている。
他の猫がトイレの後、砂をかけなかったり、砂のかけ方が甘かったりすると、妹猫は真っ先にトイレに飛び込み、「これでもか!」「これでもか!」 と前足で砂をかける。その結果、砂をまき散らして床を汚すという二次災害が起きることになっていても、妹猫はお構いなし。においのもとを埋めることが、最優先だからだ。
妹猫の砂かけはトイレ以外でも…
妹猫が砂かけをするのは、トイレの中だけではない。
においが強いもの、不快なにおいのものに対しても、砂をかけるジェスチャーをする。そういう砂かけを「エア砂かけ」と言うらしい。
私がコーヒーを飲んでいると、わざわざ寄ってきて、マグカップのにおいを嗅ぐ。そして「くさーい」「これ、きらーい」と、前足でエア砂かけする。
(くさければやめればいいのに、もう一度においをかいで確認しては、砂かけする)
「本当にこんなの口にしているの?」「これまずくない?」と私の顔を見て、さらに前足に力をこめて、がしっがしっとエア砂かけをする。
フードにもエア砂かけ…
困ったのは、妹猫が、キャットフードに対してもエア砂かけをすることだ。
その習慣は生後一~二カ月のときから見受けられた。
元虚弱体質の妹猫は乳歯が生えてもミルクしか飲めず、離乳食に移行するときもミルクが主食だった。どんなフードをあげても一口も食べようとせず、「きらーい」と砂かけをした。
フードを食べない原因は長く患った猫風邪だった。
猫風邪
兄妹猫は元野良なのだが、生後一カ月未満で保護したとき、二匹とも猫風邪にかかっていた。
猫風邪というのは、人の風邪のような症状がみられる感染症の総称(野良猫は猫風邪に感染していることが多い)。
具体的な三つのウィルス名はここでは省くが、免疫ができていない子猫や、体力の老猫が老猫が発症しやすく、自然治癒は難しいと言われている。
兄猫は軽症だったが、妹猫は重症で、目やに、鼻水、咳、くしゃみがとまらず、数カ月間の投薬治療を余儀なくされた。
猫風邪は一度感染すると、完治することはないという。ウィルスは体内に潜伏している状態なので、一時的に症状がおさまったように見えても、免疫力が低下すると再発する。
事実、妹猫の猫風邪は季節の変わり目に何度も再発した。
猫風邪でフードを認識せず、エア砂かけ
猫は視力が悪く、においで食べ物かどうかを判断する。
そのため、猫風邪で常に鼻が詰まっていた妹猫は、目の前にあるものが食べ物であることが認識できず、人間が口の中に突っ込まない限り、自発的に食べようとしなかった。命にかかわるので、妹猫には投薬ついでにシリンジで強制給餌をすることも多々あった。
当時の妹猫は、子猫用ちゅ~るでさえも食べ物と認識せず、「きらーい」と、エア砂かけした。それも、ちょっと前足で砂をかく、いう砂かけではなく、全方位からカリカリする。小さい前足に全身全霊を込めて、エア砂かけをした後は、その辺にあったティッシュや布をフードの上にかける。
「絶対にいや! こんなの食べたくない!」という強い意思表示だった。
そもそも食事というのは、生きる上での楽しみであるはずなのに、その食事が妹猫にとっては苦痛であったようなのだ。
(現在は以前より食べられるようになった)
絶賛反抗期のような砂かけは、妹猫が生後半年を過ぎる頃まで続いた。
トイレの砂かけはともかく、食事に対するエア砂かけ(食べたくない)は問題だ。だが、どんなフードをあげても妹猫のエア砂かけはなおらなかった。すがる気持ちでお取り寄せした高級フードも、においをかいだだけで砂かけ。そのときはさすがに気持ちが折れそうになった。
(妹猫が食べ残したフードは兄猫がおいしくいただきました)
「放っておけば、お腹がすいたときに食べるでしょ」と、思われるかもしれないが、自然界では、食べない=死に直結する。
様子見できるタイムリミットは、生後3カ月なら12時間、生後半年なら16時間。(長時間食べなければ、やはりなんらかの問題や、疾患を抱えている可能性が高いので、病院に連れていく必要がある)
妹猫の器の高さ、大きさ、フードの種類、フードをあげる時間、ありとあらゆることをためし、改善をこころみたが、すべて「砂かけ」で終わった。
誰にでもなんにでもエア砂かけ
妹猫の砂かけは他の猫のフードにも及び、兄猫が(妹猫が嫌いな)ウェットフードを食べているのを発見すると、「よくこんなまずいもの食べてられるね。こんなもの食べ物じゃない!」と、美味しそうに食べている兄猫の目の前で、エア砂かけをした。
先住猫が水分補給のスープを舐めていると、「こんなの、あたしは大嫌い」と、眉間に皺を寄せ、エア砂かけする。
ただ兄猫も先住猫も慣れたもので、最初は「なんだこいつ」という顔で妹猫の砂かけを眺めていたが、後に「はいはい」と砂かけに気にせず、食べるようになった。
妹猫の食べない&エア砂かけ問題は改善されたが
どうしたものかと頭を抱えていた妹猫の食べない&砂かけ問題は、生後半年経った頃から改善された。
猫風邪の症状がおさまってきた頃、やっと妹猫の好みのカリカリが見つかり、普通に食べられるようになったのである。
だが、妹猫がフードにまったく砂かけをしなくなったわけではない。
妹猫のお気に入りのカリカリをあげても「なに、これ嫌い!」と即座にエア砂かけをするのは変わらない。
「なんなのこれ!」「くさいくさい!」「あたし、これ大嫌い」「なんでこんなのがここにあるの!」と、体全身に💢マークをつけ、全方位からエア砂かけをした後、「ハッ!(ごはん)」と気づき、おもむろに食べはじめる。
そして食べ終えたときに、「もういらなーい」「ごちそうさまー」とまたエア砂かけをする。ついでに兄猫の器(先に食べ終えて空っぽ)に対して、「こんなの食べているの。くさーい。きらーい」と通りすがりにエア砂かけをし、立ち去るのも変わらない。
妹猫がなぜ砂かけをするのか。
いまだに理解不能なときもあるのだが、ある意味、妹猫の個性として受け止めている。
いろんな経験を経て、飼い主も少しは成長する。
ちゃんと食事をとってくれるのであれば、妹猫がなにに対してエア砂かけをしようと、以前ほど気にならなくなった。
妹猫が砂かけをし続けた結果
妹猫が砂かけ(エア砂かけ)のスペシャリストとして半年以上行った活動の成果は、2023年1月に出た。
今まで一度もフードに対してエア砂かけをしなかったよい子の先住猫が古いフードに対して、初エア砂かけを披露したのである。
といっても先住猫は人間の顔をチラッと見ながら、「砂かけをしてもよろしいでしょうか?」という、二、三回の小さな砂かけだったのだけど。
一緒にいると、猫たちの行動は伝染するのかもしれない。
妹猫の砂かけは、主張の強い外国人(猫)的アピールなんだなと思い、しばらく見守っていきたい。
長くなりましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました☺
どうかこの世界のすべての猫たちと、飼い主さんたち、猫に従事するお仕事をされている方たち、動物を大切に想っている人たちが幸せでありますように。