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Stones alive complex (Brookite in Quartz)


頭外部に生えるシナプス繊維ケーブルの劣化した先端が束で伐採されるにつれ、思考がクリアになってきた。
荒削りな寝癖でブルッカイト状にそっくり返ってたアバンギャルドなスタイリングは残念ながら失われてゆくけれども、心持ちはさっぱりしてゆく。申し訳ないがガイアからの伝達情報は、しばしボリュームダウンになる。

頭部側面で跳ねていた繊維ケーブルはすでに極端に刈り上げられ、頭頂あたりのはスタイルリングの余地を残して程よく残された。

人体構成要素の中でも最も植物的性質をもつ頭髪は、枝葉と同様に消耗品だ。それは頭蓋骨の保温と衝撃緩衝機能、そして自然界と交信する重要なアンテナの役割を果たす。常にリニューアルさせて伝導率を保っておく必要がある。

しかし。
アスファルトで覆いつくされた大地に乱立するコンクリートジャングルの中でしか生息する選択肢を与えられていない生命体は、基本機能の退化もいちぢるしい。

今は無き多層植物群とのコミュニケーションを司っていたシナプスケーブルは、悲しいかなただの頭髪と呼ばれるヒモに成り下がっている。

バリカンを巧みに操っていた外部シナプスケーブルメンテナンス業者は、ひととおりの伐採が一段落つくと、耳元へ低く尋ねてきた。

「もみあげは、どうなさいますか?」

仕上げの工程に入るようだ。

「えっと・・・普通に自然体な感じで・・・」

業者は見逃すほどの角度でうなづくとバリカンを止めてカートリッジを目の細かいものへ差し替えたらしく、さっきまでの芝刈り機のような派手さとは違う、軽く優しい音でアイドリングさせた。

『普通に自然体な感じで』という抽象的なリクエストのみで、どうして業者はこちらのスタイリングイメージを汲み取れるのだろう?

「自然体ってどんなイメージのものでしょうか?
具体的に指示して頂けますか?」
などと言い返された経験はこれまで一度もない。

ファビュラスな感じでとリクエストしても、同じく見逃すほどの角度で、同じくにうなづかれていたに違いない。
アールヌーボー中期風にとリクエストしても、
兜甲児っぽくとリクエストしても、
クリリンみたいにとリクエストしても、
うなづかれる角度は、変わらない気がする。
どんな注文でも決して聞き返さず、うなづく気構えらしい。

おそらく後に、大きな合わせ鏡を見せられて、
「いかがですか?」
とスタイリングの確認をさせられるが。
自分で指示したはずの「自然体」ってやつどおりになってるのかは、自分でも分からないはずだ。
これがここでいう自然体というものですよと映されるのなら、それがこちらが指示した自然体というものなのだろうな、って意味で。
「・・・あ・・・いい感じです・・・」
などと曇りなきまなこで答える予定だ。

ワンレンロン毛に染み込ませた檜の香油で第一チャクラ周辺の伝導率をアップしてくれる巫女ならではの施術なぞはないものかと横目で見える範囲で店内を探してみるが、毛染め以外の施術はもちろんあろうはずがなかった。
ここもあくまでも、普通に自然体な感じだ。それがあるとしたら別のカテゴリーの施術店にかもしれん・・・

よし。
次回は、
「普通に、自然と一体な感じで!」
って言うて、うなづかれてみたろ。

(おわり)

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