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Stones alive complex (Blue Topaz)


「さてさて。
シナリオどおりに、
かの国の戦さは、
虎の勝ちで終わりそうかな・・・」

剣山にあぐらする酒呑童子へ。
京の御所に座す清姫は、
(御所の結界に妖怪は弾かれるのだが、その弾き具合いがいい感じの低反発で、心地のよいソファーになっていた)
両の三つ指に乗せた酒盃を童子へ差し出す。

「終わりではないですよ。
始まりの始まりなのです」

「もちの論。百も承知。
ゆえにいざのトキの声まで、
断酒をしておるから、すまぬ」

清姫の盃を、酒呑なのに童子は手のひらを立てて止める。
その仕草へ不快な顔もせずむしろほくそ笑み、清姫は出した盃を手前へ下げてゆく。
その所作、清姫の着物の袖が淡路の島を西から東へ撫で、香の風を巻いた。それが童子の鼻をくすぐる。

くしゅん!

酒呑童子が起こした突風の方は、遠く不二の山を乗り越え、スカイツリーを背もたれにして居眠りしてる平将門まで届いたが、彼は将軍髭をぴくりさせただけで車の往来に紛れてるいびきの音は止めない。

「良きかな。
将軍も全面戦に備えて、
可燃性の高い霊気を蓄えておるようだな」

童子は鼻をぐしゃぐしゃと掻きむしる。

下げた盃を覗き込む清姫は、はてさてこの酒の処分をどうしようかと、思案する顔つき。
栗豆から醸造した正統な古代酒。
その透明な液体は、星巡りを充電するほど丹青に染まる。

「判定勝ちをおさめた勝者が、
リング外で待ち伏せしてる敗者と、
ど派手な場外乱闘を始めるだろう。
シナリオどおりに」

くしゅん!とまた鼻を掻く童子へ目も向けず清姫は、丹青の揺らめきへ瞳を映してみる。千の針に護られた実の精は、全は善に依らずZenよりもZeniで転戦し続ける現世の真の理を波紋で伝えてくる。
なんのこっちゃ?
アルコールよりも団子派の清姫には、そのアルケミーは理解しずらい。

くしゅん!

やかましいわという含みの京作法で清姫は、酒呑童子を心配する風に穏やかに。

「花粉症なのですか?季節外れの・・・」

「いや、たぶん。
美人アレルギーなのだなこれは」

微妙なシャレに忖度しとこうと、清姫が口角をわずかに上げてあげようとした時。
高高度から金切りな音がした。
絶叫に似た咆哮で飛行する物体が、垂直に降りてくる。

「あれがもしや、トキの声ですか?」

「いや。違う。
鳥は鳥だがな。
わしが頼んでおいた臨時の派遣社員だ。
場外乱闘の余波というか、ごたごたに乗っかった本隊はここへ、あっち方面からやって来そうだから。
西南のシールドを強化しておかねばならん。
それなりの時給を予備費から払うゆえ、傭怪でもしっかと働いてくれようぞ」

彗星のごとくに降りてきた者は、
高千穂へふわり着地した。

数枚のステルス翼をたたむと印国のガルーダは、身体中についたホコリを祓い。

「げほげほげほ・・・
なあに?ここの領空は!
すでにスマートダストだらけじゃないの!
防疫結界のつもり?
あらそこの女子、気が利くわね。
それは歓迎の神酒アムリタ?」

ガルーダと合わせた眼を三白眼にしてゆく清姫。
酒呑童子の方は、ガルーダの武装コスチュームをジロジロと点検してるうちに大きく口を開き、鼻をムズムズ動かす。

くっしゅん!

清姫は手のうちの盃をぐいとあおり、顔をそむけた。

(おわり)

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