Stones alive complex (Garden Quartz)
ニンジン将軍は、言いようのない深い悲しみに包まれていた。
戦友たちの名誉ある戦死をこれほどまでに悲しむのは、軍を統括する者としては感傷的すぎると頭ではわかっていながらも、なぜか心が痛んで仕方がない。
誇り高きカロリー軍人たるもの、戦地へ並べられたら生きて帰れないのは必然のことなのだ。
だが。
本日の戦いでも任務を立派にまっとうした仲間たちの死が、なぜこれほどまでに悲しいのだろう?
これには、別の種類の悲しみも混ざっているのだろうか?
定例どおりの襲撃が正午すぎにあり。
巨大な金属製の敵の武器がこの最前線へ執拗に何度も突き刺さってきた。
それは薄っぺらく楕円形をしたものや、凶暴に尖った槍のようなものだった。
その攻撃は戦術的には、なんら洗練されておらず。めちゃくちゃに武器を突き刺してくる稚拙なものだった。
しかし、強力で容赦がなかった。
それらに刺されたり、すくいとられてゆく戦友たちは最後に、
「将軍、お先に参ります!
どうかご武運を!」
そう、笑顔を浮かべながらも戦士の鋭い目付きで敬礼して逝った。
不覚にも生き残ってしまった者として、今後の戦略を検討する使命がある。
将軍は、できるだけ彼らの勇敢さに報いようと心に誓った。
まずは、
本日の敵の性質について、できるだけ調べなければならない。
生き残ったタマネギ軍曹が報告したように、
敵は確かに我々をめくらめっぽう襲撃したようだが、執拗に狙われた兵と、まるで狙われずどこにもかすり傷ひとつつけらていない兵がいた。
幼稚な攻撃のくせに、正確に選り好みをしていたふしがある。
なんて風変わりな敵だったのだろう。
その目的はなんなのだ?
将軍はため息をついて、科学部門のピーマン主任に尋ねた。
「敵の行動分析はしたか?」
「はい。それは調べました。
ですが・・・」
困惑した表情でピーマン科学主任は口ごもった。
「敵はやはり。
はっきりと意図して攻撃する者としない者を選んでいたようです」
「そんなことがありうるのか?」
にわかには信じられない。
「可能性が高い仮説がひとつあります。
それは・・・」
科学主任は、また言い淀んだ。
「それは?!」
ニンジン将軍がもったいぶるなと尖ったアゴで催促のジェスチャーをする。
「それは・・・
我ら食物群に対する敵の趣向が今回は、まるで小学生男子のようだった、ということです。
真っ先に戦士したのは豚肉大隊長。
続いてウインナー少佐。
ポテトフライの兵たちに至っては、しつこく追いかけ回されたあげく身体の欠片も残さずすくいとられてゆきました。
残された我々の方には、敵の武器はかすりもされなかったのに」
ふたりは、複雑な表情を見合わせた。
将軍も、
科学主任もまた,
そこから導きだされる憶測をうかつに口に出すような真似はせず、押し黙ってしまった。
何か言うにはまだ、
頭の中が混乱しすぎている。
この混乱というのは、たぶん。
まるで推測もできない理由を考え悩んでいる混乱ではなく、なんとなくうっすら分かってたやっぱりな推測を受け入れきれない混乱。
将軍と科学主任は緑色の葉っぱを模したプラスチック製の中敷きに、どさっと並んで同時に腰を下ろした。
何とか自分たちの自尊心が納得できる他の結論を出したいが、ふたりともそれがなかなかに思いつかない。
戦死した戦友たちへの申し訳なさという、むざむざ生き残ってしまった者が持つ罪悪感・・・という形でなんとかゴマカシたい・・・自己存在価値を無視された悔しさが正直込み上げてくる。
今後も、我々はこういう新しい敵と戦ってゆかねばならないのか・・・?
将軍の目は戦地であるここ、無数のカラフルな模様が描かれたオカズ皿の閑散とした淵・・・その先の遠くにある洗い場の三角コーナーへ向けられていたが。
もはやその、自らがたどる運命を見てもいず、考えてもいなかった。
(おわり)