Stones alive complex (Kyanite)
不条理の木には、問いかけが結晶したダークブルーの葉が生い茂る。
デジタル観葉植物は、どれもが崇高で中性的な枝ぶりをしていて、葉並びの重なり具合が思考階層のレイヤーを象徴していると思えなくもない。
中性的でフラットな面持ちのものは、なんでも崇高に見えてしまうのかもしれないが。
「君らって、ぜんぜん頑張ってないよねぇ・・・」
そういう褒め言葉を、まったりと投げかけてみる。
植物ほど、頑張らずに生きてるっぽい生き物はない。
『頑張りというものは手段であって、
目的ではないのですよ』
崇高な言葉遣いで、葉たちから言い返される。
もっと高度な概念を表す言葉を使ったのかもしれないが、こちらが理解できる単語へプロトコルされてしまう。
『頑張らずに効率よく生き延びるには?の目的を考え抜いた我々の結論が、この形態なのです。
かつて、いかに頑張らずにすむかを手段として頑張り抜いて思考し、その結論どおりに形態を変化させたら、こういう極限まで頑張らない形態になったわけですね』
浮き出た葉の水滴に、自分が写りこむ。
「頑張ってるうちは、まだ非効率な段階だってことか・・・」
こちらの額にも、生暖かい水滴が出てくる。
『思考という頑張りは問いかけから始まります。
何も自らへ問いかける必要がなくなったら、思考する器官も必要なくなりましたね』
「悟りに近い境地なのかな?」
『その悟りという境地を得た者は、そちらではどういう形態になりましたか?』
「聖者と呼ばれる者たちのことを言ってるのかな・・・?
それなら彼らは、心穏やかに着の身着のままで何も持たずに放浪するライフスタイルになったかなあ」
『我々に近い形態になったようですね』
「それで幸せなのかな?」
『幸せという概念も消失したはずです。
これでいいのか?とか、自らに何も問いかけないわけですから』
「それが答えってこと?」
『それが答えだと言うこともできますが。
問いかけが無くなったので、それに対応する答えも存在しなくなりました。
強いて言うなら。
無数にある答えの中の、ひとつの答えを選択し終えた・・・ということでしょうか。
選択をし終えたら、もう問う必要もないですよね』
「無数にある答えって、それは答えと呼べるのかな?
どれを選んでも正解ってことになる」
無数にある葉に浮いた無数の水滴が、
複眼のようにこちらを見つめ返し。
『選択というものは、
選択しているようで、
実は、選択させられているのですよ。
極論すれば、
純粋な選択というものは存在しません。
無数の諸事情のパワーバランスが決定した方向に従わされてるだけです。それを選択とか答えとかに呼び代えてるのですね」
葉が放出してるはずの透明な呼気ごと、
デジタルの空気を深く吸い込んで。
『その意見を・・・最初の方の話へからめると。
脳ミソがある生き物は頑張ってるんじゃなくて、
脳ミソが憶測した諸事情に頑張らされてるだけってこと?」
返事の代わりなのか。
不条理の木のてっぺんから、新たな葉を生む新芽がぴょこんと突き出した。
(おわり)