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Stones alive complex (Moldavite)

「アカシックレコードがあるとしたら、
きっと君らが記録しているんだよね」

彼の肩に触れてる枝を親しげに揺らす、
話しかけられたいちばん最初の樹は。
こすれ合う無数の葉が、雨音のような、にぎやかなおしゃべりのような、パケットを送受信する信号のようなざわつきを、周囲の木々へと伝えていく。

「むしろ。
根のネットワークがシナプス群として、頭蓋の地表を覆ってる。
数万年間の膨大な情報や経験が、この根っこワークへと継承され蓄積されてるはずだ」

地面をわし掴む根の爪は深く深くくい込み、周囲の木の爪とからみあい、その立体的な蜘蛛の巣のケーブルでいつも世界の噂話をしている。この瞬間にも、知り得たことを常に並列化している。

「鉱物から進化した、最後まで滅びない種。
刹那い哺乳類としては羨ましいね」

三本の指で肩の枝をつまみ、握手をしてみる。
彼が注意深く観察していれば。
彼の肩には、樹が歓迎する意の形で水滴を残していたのに、彼はそれに気がつかない。

「君とのコミュニケーション方法が、分かればいいのにな。
葉だらけなのに、言の葉が通じないとは・・・」

顔を上げ彼が背をそらすと、重なり合った葉が隙間を開けたり閉じたりして、木漏れ陽を彼の網膜へ明滅させた。
彼が注意深く観察していれば。
それはモールス信号であり、樹が気を利かせてなんとかコミュニケーション方法を教えてくれたのだと気がついたはずだった。

「質問したいことは。
例の根も葉もない噂の、根と葉の在りかとか。
1+9+4+5+8+6=3+3=6
2+2+8+1+2=1+5=6
1+9+4+5+8+9=3+6=9
2+2+8+1+5=1+8=9
とか・・・」

いちばん最初の樹は、彼の皮膚から伝わる問いの情報を植物細胞のセンサーで感知して、質問の答えをナノ・セカンドで地殻から引っ張りだし、微細な信号にして握手してる枝の先端まで送った。
残念なことに。彼の生体にはそのフィードバック信号を正確にデコードする機能がない。

しかし彼は、心拍リズムのわずかな乱れを感じた。
ストレートな樹の言語を使う代わりに、樹は樹皮のミクロンの穴からフィトンチッドを噴霧し、フェロモン刺激を使って情報を伝えようとしたのだ。
彼が注意深く観察していれば。
心拍の乱れはモールス信号であり、樹が気を利かせてなんとか問いの答えを教えてくれたのだと気がついたはずだった。

「固い話は、これくらいにしておくよ。
やっぱり森の中は、すごく落ち着くなあ・・・」

彼の鼻の穴も、樹の香りでひくひくしはじめた。

彼が注意深く観察していれば。
そのひくひくもモールス信号であり、樹が気を利かせて別の方法でなんとか問いの答えを教えてくれたのだと気がついたはずだった。

彼が根元に座り込んで、うたた寝をしている間も。
いちばん最初の樹はずっと、いろいろとなんとか気を利かせ続けた。

(おわり)

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