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Stones alive complex (Rainbow Obsidian)

小烏丸と天羽々斬がクロスしている刃の接点が、じわじわと加熱してゆく。
平将門の霊的剛力と亜火ノ聖命の霊的踏ん張り力が、極小の一点に加重され発熱していた。
その多大なる霊的熱量はそれぞれの薄刃を伝達し、刀剣全体の色味を切羽詰まったものへと変える。
散る前の桜か、こぼれる前の梅か、崩れる前の牡丹か。
1ミリも動かずに拮抗しているチカラの衝突は、数秒後には互いのデバイスを対消滅させるであろう。
宝剣どおしのポテンシャルは、対峙させることすら危険極まり。
犬と猿?
尾張と三河?
滋賀と京都?
馬場と猪木?
う~ん・・・上手い例えが見当たらないほどに。

微動だにしない刃の十字架を見つめていた聖命は、片手持ちで空いている方の左手を、将門の脇の下へ素早く突っ込んだ。脇を指でくにくにする。

「へにゃほぇ~」

緊迫感が抜けた声を漏らし小烏丸を引く将門。
将門が加えていた加重をも利用して、聖命は低い重心のままくるり一回転すると、将門の横胴を水平に薙ぎ払った。

「やっぱ性根から最悪だわっ!
貴様の性根はダークサイドにあるわっ!」

非難しつつ将門は、いわゆるマトリックスで有名なポーズ、両膝から上を直角に仰け反らせた姿勢で聖命の横薙ぎをかわす。

ならばと聖命。
回転のモーションを垂直のベクトルにして、羽生君ばりにジャンブ。
無理な体制で移動ができない将門を空中から斬撃。
それに応戦して将門は、オーバーヘッドキックの要領で落ちてくる聖命の体を後方へ蹴っ飛ばす。
聖命は蹴りこんでくる将門の足の甲へ自分の足裏を合わせ、蹴っ飛ばされるようにして飛んだ。

くるくる空中で前転しながら飛ぶ聖命。
キックの勢いで同じく、くるくる後転した後立ちあがる将門。
そのまんま将門は駆けだして、聖命の落下点を狙う。
聖命は前転で頭が下になったそのつど、追ってくる将門の位置を冷淡に確認していた。

頭上前方を飛んでいる聖命が放物線を描いて着地する点を予測して、将門は走る。着地の一瞬には隙ができ、確実なる勝機があった。
しかしながら、聖命の軌道は放物線を描いてはいなかった。軌跡は、ずっとまっすぐに地面と平行。

等速直線運動。

「こら!
どこまで飛んでくねんっ!」

距離を保ち追従してくる将門へ、
聖命はやっぱ根腐れしてる微笑みを返す。

夢の中に重力は無かった。
否。
正確に言えば、演出上あって欲しい時と場所にだけあった。

時折、将門もジャンプして小烏丸を突き立てるが、その切っ先は微妙に届かない。
この場合、ジャンブした将門の体も無重力で聖命へ届くはずだが、重力は将門にしか作用していなかった。
鬼気迫る形相で疾走する将門。
その姿へ聖命は、

「・・・将・・・門・・・よ・・・」

頭が下に来た時に分割して語りかける。

「自己啓発の・・・基本とは・・・
己の・・・足元を・・・見る・・・ことぞ・・・」

反射的に形相を自分の足元へ向けた将門。
そこに地面は無かった。
自分の足が空回りしている光景を、将門は見る。
両者が戦っていた地母神の手のひらからは、とっくにはみ出していたのだ。

それに気がついたとたん。
将門の体には重力が作用し落下を始めた。

演出上あって欲しい時と場所にだけにある重力、
それを人はトムジェリの法則と呼ぶ。
人は誰しも、気がつくまでは飛べるのだ。

(おわり)

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