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Stones alive complex (Crysocolla)


麓に立つクリソコラは、頂きへと腕を伸ばした。
何も持っていない手のひらを開き、閉じ、また、開く。

唯一無二の山は彼女の手で示された頂きから、クリソコラのそのなだらかな所作を見返す。

クリソコラの動きは、そこで止まらなかった。
肘がぎゅっとしなる音を立て、屈伸が前腕に連動した。
反らせた手首は暖かく、日に当たる雲がぎっしり詰まったようになってゆき、手のひらは・・・
手のひらは接点になった。

もはや。
それはクリソコラの手ではない。
手首も前腕も肘もクリソコラのものではない。

図の辺だった。

あらゆる構成要素をまとめて畳んで重ねた後に残る、本質を表す幾何学図形。
三角形は山を表し、
円を乗せた三角形はヒトを表す。

二者の大きさや離れている距離などは無関係に。

互いの相似した辺が、仮想平面の内でゲシュタルトリンクされる。

「八雲立つ・・・」

軽く噛みしめていたクリソコラの唇がゆるんだ。

「境の腹より生れ来たる・・・」

クリソコラの声は、張りとなって各辺へ伝わった。
その張りは辺で囲まれた面の具現化密度を高めた。
クリソコラの予想以上に。

いや、これまで予想される範囲で起こることなどなかったが。
自分でも気づいていない方向性は、いつも予想の境目を通り抜け、
正常に機能していることを偶然に、
非正常な奇跡の方を必然にする。

仮想を実相として扱い続けることで、
仮想は実相の袖口から懐へ忍び寄り、ジワる。
実用的に活用できる秘儀として、仮想が実相に憑依する。

クリソコラは仮想平面の山頂に、温もった仮想の手を置いた。
その顔は、慣れ親しんできた意外さを楽しんでいる。

「垣の境板で、囲い護るかと思いきや。
祓いの境木で、振りはらい討つつもりなのか?ワタシの真意は・・・」

クリソコラはひざまづき、
選択は真意へ委ねる姿勢を伝えた。

「どちらかの真意が、あの頂のところに示される」

成層仮想圏から舞い落ちてきた数えきれない菱形の葉が、無数の小枝を空中で伸ばした。
そこからさらに太い枝が生えて、それらを束ねた。

太い枝は、
しっかりとした一本の幹を生み、それに繋げられ、まとまり。

延長線上にあった山頂へ降りる。

そこからは視覚では追えないが、
根が山の背骨として奥深く広がってゆく。

唯一無二の山頂に、菱の榊が立った。

(おわり)

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