Stones alive complex (Natural Aura Quartz)
『モンスターモデリング技術から産まれたタロット占い師』、略してモモタロウは。
オニ退治をすべく、オニガシマへと続くルートを急いでいる。
モンスターモデリングの戦闘力と、
タロット占い師の知力とが、
合わさって加熱する文武両道のオーラで、すでにシャアの三倍ほど赤く燃えていた。
「ちょっとそこの赤すぎて目立つ旦那!」
道端からモモタロウへ声をかける者がいた。
「お主は何者だ?」
「私はイヌです」
イヌと名乗る者は古風な着物に身を包んだ老人で、ゆらゆらした二足歩行をしていていた。
けげんな顔つきのモモタロウへ、イヌと名乗る者は解説した。
「イヌというのは、
『インテリジェンスぬらりひょん』の略です」
「ああ。なるほどな。
ボクの名はモモタロウ。
『モンスターモデリングタロット占い師』の略だ。
オニを退治しにオニガシマへ向かっている!」
ああ。なるほどな・・・
インテリジェンスぬらりひょんも納得し、
声をかけたくなった点を改めてモモタロウへ訊いた。
「そのウエストベルトに付いてる手榴弾ぽい物は、なんですか?」
「これはキビダンゴ。
『キモい美談ゴーアウエイ』の略だ。
気持ち悪き綺麗事を語る輩へこいつを投げつけてやると、その上っ面で爆発し輩の口が停止するというメンタルウエポンだ」
「キモい美談ゴーアウエイを略したら、
キビゴになるんじゃないんですか?」
モモタロウは、キビダンゴのひとつをベルトから外してイヌに投げつけるふりをし。
「正論すぎて言い返せない歯がゆい正論も、キモい美談に含まれているのだぞ!」
「参りました。
それ、自分もどっかで投げてみたいです。
お供させてください・・・」
「しばし待て。
仲間にすべきかを占ってみる」
モモタロウは、タロットカードを懐から取りだすとカードを一枚引いた。
「ソードの3のカードだ。
戦隊の定員は3人必要と出た。
よし、お前をひとり目の共としよう」
モモタロウとイヌは並んで歩き出した。
大股で闊歩するモモタロウへ、必死のゆらゆら二足歩行で追いかけてるイヌが尋ねた。
「ところで、オニガシマってどこにあるんですか?」
「だいたいこっち方向だと思っている!」
「思っている!って。
曖昧な自信満々ですね・・・」
カッとした表情でまたモモタロウがキビダンゴを構えると、イヌはすぐ押し黙った。
「ちょっとそこの赤すぎて目立つ旦那!」
また、道端からモモタロウに声をかける者がいた。赤すぎるオーラは目立つ。
「お主は何者だ?」
「私はサルです。
『最短ルート検索』の略です」
「ちょうどいいやつが現れたぞ!」
モモタロウは雇用条件を説明し、
サルは受諾して、ふたり目の共となった。
サルが効率よい道を先導する。
が。
かなり歩いたところで。
進捗のペースが遅いイヌにサルが業を煮やして一悶着起きそうになった。
そこへ。
「ちょっとそこの赤すぎてー!
目立つ旦那ぁーっ!」
遠くの木の上からモモタロウへ叫ぶ者がまた現れた。
やっぱりシャア3赤は、遠目でも目立ちすぎる。
モモタロウは叫び返した。
「お主は何者だーっ?」
「私はキジでぇーす!
『協働事業』の略でーす!」
「略すまでもない名だが。
ちょうどいいやつが現れたぞ!」
イヌ、サルと同じ雇用条件にてキジも共になった。
そこからはキジがイヌをおんぶし、ウインウインで仲良く旅が進む。
やがて、なんだかやたらに派手でキラキラしたビルの前に差しかかった時。
そのビルの中から、
BSC!やEVA!、PPM!とかいう難解な略語が飛び交っているのが聞こえた。
モモタロウはさっと手を挙げて、
皆の者の歩みを制した。
「ここだ!
ここがオニのシマだ!」
モモタロウはキビダンゴを、手際よく共たちへ配った。
「ここに間違いない!
ボクをフリーランスに育ててくれたオジイサンとオバアサンのパソコンへ、老後起業コンサルのメルマガを大量に送り付けて困らせてるやつらのアジトだ!」
イヌはビルの裏口へ回り、サルはビルの壁面をよじ登り、キジは屋上へ飛んだ。
中にいる高そうなスーツを着た人たちを、ビルの正面玄関越しにモモタロウは睨みつける。
「こいつらがオニだ!
『オールニーズイズ?』
の略だ!
昨今のニーズは月サイクルでコロコロ変わってるんや!
簡単に分かったら!
誰も苦労なんかせんわっ!」
モモタロウと共たちは、いっせいにキビダンゴをビルの窓から投げ込んだ。
キビダンゴが当たったオニは、
アクアオーラ色の破裂に驚いて無口に帰し、配信停止になった。
こうして。
メルマガの分かりにくくて面倒くさい配信停止処置がすべて終わったモモタロウたちは、意気揚々と帰路についた。
故郷の村に着くと。
「おお!モモタロウ!
無事に帰ってきたか!」
オバアサンから『お邪魔遺産』な扱いをされている略してオジイサンが、いつも追い出されている庭の松の木の下から泣きながら飛びついてきた。
オジイサンの後ろでは。
「ぎゃはははひふへほー!
モモタロウおかえり~マイラブ、ソ~、スイート!なんてなー!
ぎゃはウケる~ははひふへほー!」
モモタロウを待ってる間、心配のあまり笑気ガスの亜酸化窒素を吸いすぎた、つまり、『オーバードーズ亜酸化窒素』を略してオバアサンが狂ったように爆笑していた。
モモタロウはモンスターモデリングされた腕に抱えているオニから奪ってきた大量のオタカラを、オジイサンとオバアサンの前へ広げた。
「それは何じゃな?」
「なにそれなにそれな、にそれな!それな!
ぎゃはははひふへほー!」
モモタロウは胸を張る。
「これはオニのオタカラです!」
「何の略なのじゃ?」
「オールニーズイズ、
『オタクの空騒ぎ』です」
(おわり)