Stones alive complex (Fluorite in Quartz)
もう久しく・・・
「呪文字を造型し商いする者」は、
親しき賢者たちとの講話会に加わっていない。
ひとりぼっちで論争の術を修練し、ぼっちでネッフリに写す自己観察の術、ぼっちで生命の謎の熟考などに勤めていた。
世間では「三密」を心がけよ、と強く叫ばれている。
それが、
換気の悪い密閉空間、人が密集する場所、密接した近距離での会話、その『三つの密』を避けよという意味なんだって、わかる前に。
手に仏の象徴である印を結び(身密)、口に仏の言葉である真言を唱え(口密)、心を仏の境地に置くこと(意密)によって、仏と一体になる努力をしていく、仏法の「三密加持」をマスコミから勧められてるのだと勘違いしていた。
生命現象はすべて身(身体)、口(言葉)、意(心)という三つのはたらきで成り立っていることから、人間のこれら三つのはたらきは、煩悩に覆われ汚れてゆき、やがて三業(ごう)に堕ちる。
そうなる前にアブソリュート・テラー・フィールドの業をも、エネルギー的にアルコール消毒せねば。
人としては、南の窓を換気した部屋にぼっち状態ではあるが。
「呪文字を造型し商いする者」は命としては、ぼっちではなかった。
眼前のカーペットにのたくってる、ぼっち修行の師である高僧が、真言を鳴いた。
「にゃ~む・・・」
「南無?」
高僧は、毛むくじゃらの尻尾を振り、後ろ足で耳の後ろをがりがり掻きむしって、彼の発音を正す。
「にゃ~む・・・!」
サンスクリット語に訳せば、オールでリスペクトするという南無の真言より、さらに上級のマントラがあると、この師は訴えてくる。
結跏趺坐した太ももへ無遠慮に肉球をのしと乗せてきて、眼前へ細めた虹彩と小さき牙とちろちろする舌を、師は当てつけてきた。
高度な仏の作法、無作法だ。
師は、その真言を繰り返し唱えた。
「にゃ~む!
にゃむ!
にゃ~む~!
にゃ~っ!
む~っ!」
すでにしてこの高僧は、すべての言葉の根源である「オーム」をも超越した「にゃ~む」を口に発し、吸う息とともに自分の内面を吸いこみ、吐く息とともに「にゃ~む」の波動を自我の外面へ拡大している世界の果てへと循環することができた。
この次元操作によって自我と世界は相転移し、世界に内包された自我は、世界を内包した自我へとパラダイムシフトする。
永久の魂をこの時に集中し、鎮まる精神が放つ輝きが高僧の狭い額の三毛を震わせている。
すでにしてこの高僧は自己の本性の根底に、帝釈天の軍勢ですら破壊しがたい、宇宙と一体なるアートマン(真我)であると説かれた有るがままのワガママが息づくことを知っていた。
「にゃ~ぁ~あ~あ~む~ぅ~~!!」
しつっこく長引くマントラの絶叫に、
弟子としての「呪文字を造型し商いする者」は、ふと壁時計を見て気づく。
おっと。
高僧に捧げる夕げの時刻だったか・・・
飼い主としての「呪文字を造型し商いする者」は、うっかりしていた。
キャットフードを備蓄してるコンテナを開ける。
またもや、おっと・・・油断をしていた。
在庫がゼロになっているではないか。
この未熟者めが。
いっしょにコンテナを覗き込んでいた高僧が、呆れたとの真言を鼻を突き出し唱える。
「にゃ~む・・・むむっ!」
∩(#^ΦωΦ^)∩
不要不急ではない、急用ができた。
閉じこもった心を世界へ解き放ち。
近所のペットショップへ托鉢・・・じゃなくて買い出しに行かねばならない。
(おわり)