Stones alive complex (Pink tourmaline)
ピンクトルマリンは、月が自転する音をソプラノで歌い始めた。
その旋律が、彼女の足元から続く月面を赤い残像でビブラートさせる。若々しい武者震いのビブラートはまっすぐに月の中心核へ伝わってゆく。
星たちを回転させているエネルギーは、
いったいどこから来ているのか?
星は自転して音を鳴らしているのではなく。
それぞれに固有な自転の音が、この月面から送られてくるからこそ自転というものができているのだ。
ピンクトルマリンの背後に控えていた天使のコーラス隊7名が、無言のまま一歩づつ前へ進む。
その歩みは機械的に正確に、ありえないほど力強く、まるで前線へ出陣する騎兵のパレードだった。
一歩踏み出すたび息をひとつ吸い込み肺へ満たし、横一列にピンクトルマリンの後ろへと近づいてくる。
新たな一年の始まりの朝。
(自転も含めて)今年一年の物事が深遠なる計画通り上手く回りますように、と。
あまねく銀河へ上位概念的秩序をもたらす聖歌が、今年も月のクレーターホールで歌われる。
物理次元の楽譜の裏側にある五線譜へ、波紋の音符が歌姫たちの声帯によってレコードされる。
見えない領域から指揮する回転のリズムと共に。
この世側のミュージカルは、
それをBGMとして生み出されている。
太陽から近い順に、
ドレミファソラシの惑星音階を担当するコーラス隊7名は、最大限に慎重な距離をとりピンクトルマリンの背後で歩みを止めた。
そして、
各担当の惑星へ聖歌を送るため、身体を各々の向きに変えた。
コーラスパートの始まりを、ミの天使がまず青い音域で歌い始める。
軌道としてはミの補佐の立場になる月のピンクトルマリンは、肺活量の残りを計らいつつ、出していた「ミの#」の音をさらに伸ばした。
次に火星の音を出そうとしていたコーラス隊の天使が、ピンクトルマリンの肩を真後ろからこずき。
こう耳打ちした。
「アナタの出してる音が、
また私の担当とかぶっとる・・・」
ピンクトルマリンは振り向かず、さらに声を張ってファへ返事をした。
「Wha~t~?」
この台本どおりに意味深な喜劇もまた。
新年、毎度お約束のミュージカルなのだ。
(おわり)
https://youtu.be/_5iyXXIijq8