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Stones alive complex (Pink Opal)

月明かりの逆光でシルエットにされた彼女が、大粒の涙を「ピンクオパール駅」のホームへ落とすと。

足元のコンクリートに滲んでゆくその涙を隠すつもりなのか、霧のような雨が降ってきた。

満点の星を背景にした月が、丸く光ってる綺麗な夜空から冷えた雨が・・・?

「・・・おやおやこれは!
狐の嫁入りだねえ・・・
夜に見るのは初めてだよ・・・」

このシーンにおいてはたぶん、最悪のNGワードを彼女へつぶやいてしまった。

人生を賭けた大都会での恋に破れ、山深き田舎の里へ帰る夜行列車を待つ女は、デリカシーが皆無なそんな言葉を責める顔すら上げることもなく。
顔を隠した両手を小刻みに震わせ、ホームの椅子でじっとしている。

なんとかリカバリーする言葉はないものかと脳ミソの中を必死で探っているうちに、ルルルルルル!という列車がやってくる連絡音が夜に響いた。

ライトの光を霧雨で乱反射させ、
長い車列がホームへ入ってくる。

全体がピンク色に塗装された、乙女チックでキュートな列車だった。

・・・え?
夜行列車にも、女性専用車両なんてあんの?

「もう、人間の男なんてコリゴリよぉぉーっ!!」

すっくと立ち上がった彼女の叫びと、停車したピンクの列車のドアが開くタイミングは同時だった。

コリゴリカテゴリーに充分入ってる自分だが、ドアへ駆け込む彼女へ「どうか元気でね!」と。
こういう山場のシーンでもボキャブラリーの貧相さが露呈する言葉しかかけられないまま、白線の手前まで歩み寄った。

閉まる窓越しに、涙が止まらない切れ長の瞳でバイバイとかすかに唇が動き。
無理してる感じに、こちらへ手を振る彼女。

その後ろには。

たくさんの白無垢姿の女性が乗っており。
角隠しの下から彼女と同じ切れ長の目で、こちらの様子を興味深そうに眺めている。

走り出した夜行列車を早めの小走りで追いかける。
荒い息のすぐ真横を流れてゆく白無垢を満載した列車の車体には、

『女狐専用車両』

と書かれていた。なるほど。

夜行列車が西の闇に消えれば、車両を追いかけている雨も幻のように消えた。

その後の展開は、お約束どおり。

一年半後に彼女から届いたハガキには。

傍らに寄り添うイケメンの旦那さんそっくりな、尖った耳と切れ長の目をした可愛い赤ちゃんを抱いた彼女が浮かべる、幸せそうな微笑みがあった。

(おわり)








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