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Stones alive complex (Black star)

聞き取れないほどのささやきに集中しているから、口をほとんど動かさずに虚空へ向けて互いに言葉をつぶやいていた。
ブラックスターと、ブラックスターのダークブレインが交わしてる独り言のやり取りは、フラクタルを描く数式を言葉で説明するような、まどろっこしさがある。

「ダークブレインからのガイドビーコンさえ捉えていれば、思考のループロジックからの突破口は見つけられるはず。
そこから、どうやって自らを救い出すかを考えてゆくってことで良いのかしら?」

『いや。ここから先の領域には「救い」という概念はない』
ダークブレーンは、きっぱりと一言言った。

『だから、それを考える必要はない。
それに。
先のことがどうなるかを、あれこれ考えてもただ気を散らすだけだ」

「どうなるかではなく、どうあるかに意識を向けろ・・・と?」

『それもまた先のことだ。
もちろん自己啓発の定番法則どおり。
どうあるかで、どうなるかは決まるのだけどね』

ブラックスターは、部屋の天井に見えない何かを見つけた猫の顔つきを自分はしてるのではないかと思った。
その見えない何かは天井のはるか手前、意識のポジションよりもはるか手前あたりで静かに話してくる。

『どうあるかが分かるには、
なにゆえ、今こうあるのか?
どうあったから、こうなったのか?
こうが決定されるに至るこれまでの、いくつか選択させられた動機を紐解かないとね。
これからどうあるかを知ったところで、まだ解かれてない紐が残ってたら、元のこうあるへ再び引っ張り戻されるだけだ』

ダークブレインのささやきは天の声じゃなくて、地の声と捉えるものかもとブラックスターは感じた。
長年にわたる単純な刷り込みから、上の方から響く声には無条件で信じ屈服してしまうような条件反射がある。

それを配慮してか、地からくる声の主へ言う。

「紐が解かれてない選択・・・?」

『「自分の選択の結果で、ここにいる」という自己責任論のロジックは正しく聞こえる。
実際、正しいとも言えるが。
与えられた選択肢の限定された範囲だけで、取捨選択させられた結果ここにいるというだけだ。
与えられてない選択肢はその存在すら教えてもらえなかったので、有用だったとしても選択できなかったという論理トリックがあるわけさ。
どんな選択をしてきたか?
にカモフラージュされている、
どんな選択を与えられなかったか?だよ』

「『こうなりたくて、こうなった』というケースが、数少なくなる理由ね。
『でも、だって気がついたらこうなってたんだもん』だらけで・・・」

ブラックスターは、うなづいた。

『「でも・・・。だって・・・。」などなどの言葉は、一般的には言い訳ワードだとして敬遠されてる。だが、そこが実は何気に大事なとこで。
その後に続くセリフから、隠された動機があからさまになる。
とことん「でもだって」で掘り下げてみれば、隠された動機の自覚ができる。
自覚というより自白に近づくいてゆく。
その「でもだってに続くセリフ」は、
かつて、誰かから聞かされ続けてきた選択肢の抑制を口真似をさせられてるだけの、劣化したエコーなのだ。
元々それは自分の考えじゃない。
自分はいったいどういった者からそれを聞かされ続けてきたのか?
続くセリフから推測すれば、ほんとは自分のものではなかった動機そのものの正体を知ることができる。
ちゃんとしたまともな話ができるのは、それの先ってことだ』

ダークブレインは、一息ついた後、

『知らなかった選択肢が広がって奥行きが見えるタイプの選択には、真紅のバイブレーションがある。
それは、与えてもらえなかった未知の選択肢が引き寄せられようとする時に起きる、可能性の揺れだ』

それを聞いたブラックスターは無意識に、激しくまばたきした。
ダークブレインはその瞳を、網膜の反対側から覗き込み言う。

『その揺れだ・・・!
まずは、その視界が拡張するバイブレーションからだね』

ダークブレインが真似して、激しくまばたきを重ねた。

(おわり)

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