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Stones alive complex (Dumorutierite in Quartz)

「やあ。お嬢ちゃん。
こんにちは。
よく晴れた明るい、いい日だね。
もっともここの空は心理境界面だから、太陽は浮かんでないんだけど・・・」

しゃがんで妖精の家を作っている女の子の背へ、慎重に声をかけた。庭に落ちている木切れで、三角錐のテントを草地に建てている。それの屋根へ花飾りを刺してるかわいらしい手が、静かに止まった。

女の子は恐る恐る顔をあげたが、恥ずかしそうに向こうを向いたまま、すぐうつむく。

空は全体に、そして地面は地平まで、LED照明みたいに薄青く光っている。
全方位から照らす光源のせいで、ここにある物体には影も陰もできない。

「どっちのほうが好きかな?」

なるべく刺激しないような口調を心がける。
静脈色した毛細血管くらいな細さの彼女の髪は、束ねられておらず、親密さのアピールでとかしてあげようかなとも思ったが、まだ早尚かもしれない。
この女の子を封じている身体と心の持ち主とは懇意の仲だが、表層と深層の意識はまったくの別人だと判断すべきなのだ。

「ひとりでここから出てくる?
それとも、外まで手を引いてってあげようか?」

女の子は小さく肩をすくめたが、あいかわらずうつむいている。

「君は賢いインナーチャイルドだね。
この段階で、どっちとも決めないのは・・・」

説得というか交流を続けた。

「君に限らず人間のインナーチャイルドは、いわゆる潜在意識と集合無意識の境目あたりで自閉空間を作り住んでるものなんだよ。
普通君たちは自閉されたまんま、持ち主と共に産まれて生きて自覚されずに死ぬ。それが長年の摂理というか次元の罠みたいなシステムだったんだ。
けれど。
ここにきて少々、今の浮世の事情が変わってきている。ナスカやインカ時代と同じパラダイムが再現されつつあるというべきか・・・あの時代の人種が位相していった先の異界の場所へ、早急に離脱しなくてはならなくなったんだよ。
君がここから外へ出て、内面と外面の人格が統合されないと、位相は移行モードにはならない。
君の表層意識の持ち主、つまりはここの空間と君を包んでる女性だね、を私としてはそういうわけで統合したいんだ。恋愛感とかの理由じゃなくって、連帯感としてだけど・・・」

女の子の肩にかかる髪が揺れているのは、くすくす笑っているからだろう。
顔をあげて笑顔で見上げてきた。
こちらも愛想のいい笑顔を作ろうとして、みじめに唇が引きつる。女の笑顔とは、同意の現れとは限らない。逆の意味もあるからだ。

初めて正面から、あどけない表情と向かい合う。

「やあ、お嬢ちゃん。
改めてまして、こんにちは。
女の子の姿をしているけど、並行宇宙についての知識を数千年分くらい持ってるってことは、知っているよ。
だから、ここで妖精を待ってても来ないことは君も知ってるだろ。
集合無意識に先人たちが切り開いた位相の抜け道へ導いてくれるガイドは、外の現実に投影され、事物としてどこかにいるはずなんだ・・・」

そう、ぎこちなく言うと。
女の子は的外れな説得を聞いてるかに、笑いをかみ殺すのに必死になっていた。
今のところ、ほとんど会話は成り立ってなかったが、彼女はほんの少しだけくつろいだ表情にはなってきており、万人の心の中にずっと住んでいる単一の心らしい毅然とした姿になった。

すっくと伸びた身長で立ち、こちらを太陽と月の眼で見下ろす。

『女を誘いに来るなら、
花束くらい持ってきたら・・・?』

ああ・・・意外な人間ぽい指摘。
あんたはぺらぺらの理屈以前に、基本がなってないってか・・・

(おわり)

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