Stones alive complex (Pink Cobaltoan Calcite)
午後2時40分からが、猛烈に眠い。
眠気覚ましにノートの端っこへイタズラ書きしていたら・・・そこからプロファイルダンサーのピンク・コバルトカルサイトが飛び出してきた。
ツンとアゴを上げて言う。
「召喚した?」
いや、召喚してないけど・・・
「それ、ワタシを呼び出す魔法陣でしょ?」
これは、『着物の着付けを練習してる猫』の絵なのですよ。
「そっちじゃない、その猫の横の魔法陣よ」
こっちはエンピツの芯を尖らす目的での、
ただのグリグリ書きだよ。
「それ、魔法陣になってる」
え?これが?!
偶然にも程がある!
「着付けしてる猫のモチーフを選んで描き添えた理由が、よく分からないけど・・・」
イタズラ書きのモチーフに理由なんてないよ。
なんとなくだよ。
「おかげで着物着用必須うで召喚だと勘違いしたわよ」
よく似合ってるよ。
カルサイトはにっこり笑い、裾を広げてターンする。
長い裾が張り扇になって、ボクの頭を張りとばす。
「自分でもイケてると、ちょっと思ってる。
案外、着物も似合うのねワタシ!」
正しくは着物柄のワンピースだけどね、それ。
「いっこ上のステージへ上がった感じ、別次元への扉だわ。
意外に似合う服やアクセを発見すると、
気分も思考も変わるって人間だけじゃないのね」
さらにくるくるターンして。
「で。ワタシに聞きたいことは何?」
考えてなかった。考えとく理由もなかったし。
「じゃあ。勝手に質問に答えるわね」
そう言ってもカルサイトは、ターンを止めず。
顔がこちらを向くたび、裾で叩いた後にボクを見下ろす。
「『やりたい事が見つからない』って悩みがあるでしょ?」
うん、あるね。
「ホントはそれ悩みなんかじゃないの」
まさか!
充分立派な悩みだと思うけど・・・ランキング上位に定番の。
「『やりたい事が見つからない』とは、
『やりたくない事を見つけ続けてる』って状態のことでしょ?」
まあ、そうとも言えるね。
「それは。
『やりたい事を見つけて、やろうとするな!
やりたくない事を見つけて一生懸命頑張れ!』
という潜在的な刷り込みに、とても忠実に従ってる状態ってことなの」
カルサイトのくるくるターンは、ますます弾んでゆく。
バシバシと何度も裾に頭を叩かれてくうちに、完全に眠気が覚めてきた。
「つまり。
『やりたい事が見つからない』状況とは、
潜在下に刷り込まれてる『やりたい事を見つけるな!』という、
刷り込みを発見してる状態と解釈ができる。
だから。
悩み中じゃなくて、
その潜在的な命令を実行し達成している方向での、成功体験中なの!
すごすぎる大体験なのよっ!
すごすぎる大発見なのよっ!
もちろん!
その命令を逆にひっくり返すのは、さらに!
すさまじい大体験!
すさまじい大発見!
オーレっ!!」
カツン!と鋭く響くカカトのキックで。
フィナーレのポーズを(ボクのノートの上でだが)華麗にキメて!
カルサイトは満足げな、ツンとアゴを上へ突き出した表情で周りを見渡す。
「ちなみに。
『やりたい事』を『好きな物事または人』って置き換えてもいいわよ」
眠気を覚ましたい!というボクのやりたかった事は、
こういう方法で大成功させてもらったよ。
「ところで。ここは何てステージ?
オーディエンスたちが拍手も忘れるくらい口ポカンでワタシの踊りに見とれてるわ。
近づいてくるシャキッとした制服の人は誰?
ここの支配人?レギュラーの出演依頼かしら?
いいわよ!この劇場はこじんまりしてるけど気に入ったわ!」
ここは喫茶店だよ。仕事の合間に休憩しに入ったんだ。
そしてシャキッとして歩いてくる制服の人は、
『お客様、テーブルの上で踊られては困ります』
って、言いにくる店長さん。
「おっと!今回のワタシのやりたい事は、ここまでのようね!」
カルサイトは、みんなへにこやかにお辞儀すると・・・
エンピツの芯を尖らす目的での、ただのグリグリ書きの中へ、
すーっと消えていった・・・
(おわり)