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Stones alive complex (Platinum quartz)

俗な呼び名では。
インナーチャイルドと通称されている「個とその帰属集団を繋げる関係性の基本仕様人格」

それと長年に渡り、意見交換したり叱咤激励したり、なだめすかしたり地道に論破したり、一緒に面白おかしく遊んだりして親睦を深め。
概算で8割ほどの相互理解度で融合を果たしたプラチナルチルクォーツは。

自由に出入りが許されたインナーチャイルドの住処の奥に、倉庫ほどの大きな檻を見つけた。

「この檻は、なに?
なにが入れられてるの?」

そう問いかけたが。
インナーチャイルドはイタズラっぽい顔つきをするだけで、答えようとはしなかった。

8割ほどは融合をしているとはいえ。
その8割の内訳は。
その9割が完全同意。
残り1割が条件付き協定。
といった配分だった。

仲良くなったインナーチャイルドが質問に答えない・・・その態度が示すところは?とプラチナルチルは考えた。
たぶん。
全体として残っている2割の不理解と、
部分的理解のうちのまだ1割くらいある協定条件に抵触している可能性があるわねと推測した。

その檻は鋼鉄でできており、容貌としてはオモチャのブロックが組み合わされた構造だった。
積みあげられたブロックが、黒金色した立体パズルの城と化している。

知りたいなら、
自力で調べてみろってことね・・・

プラチナルチルクォーツはてきぱきと髪を束ね、とりあえず本気出す!の仕度をした。
檻のそばに立ち、鉄のブロックへじりじりと指先を伸ばして距離をつめた。

恐る恐る触れた指先は、なにも問題がなかった。
そのまま横滑りさせながら、
どこか組木パズルみたいに凹むところとか、鍵穴らしきものはないかをつぶさに確かめた。

それらしきものは、無い。

諦め、探っていた指先を檻から離そうとした時。

いつのまにか自分の後ろに忍び寄っていたインナーチャイルドから、そっと背中を押された。

とたんに身体を構成している分子がぱたぱたと相転移をしはじめ、存在確率で決定される物体への浸透圧が虚数となった。
おろおろと前へつんのめったプラチナルチルの体が触れた檻のブロックは、ホログラム状になり透き通った。
プラチナルチルクォーツは、とっとっとと、あっけなく檻のブロックを歩いて通過した。

インナーチャイルドの陽気な笑い声が檻の外から聞こえた。

檻の中に入ったプラチナルチルクォーツは。
檻の中の主と対面した。

そこには、一匹の黒いジャッカルが優雅なたたずまいで寝そべっていた。

黄金の眼差が、プラチナルチルをまっすぐ見据えている。

それにも驚いたが、
それより驚いたのは檻の中の様子だった。

檻の中は狭く閉ざされた空間ではなくて。
空には色が無く、
色の無い地面のその地平線も果てがない場所だった。

ジャッカルの黒い毛並みは、見回しても光源などは見当たらないのに、けれど明るく反射してる部分が銀色にキラキラしていて、風もないのにそよいでいた。

振り返れば。
通り抜けてきた檻は、そのまんま建っていた。
檻の中と外の世界が、ぐるりと入れ替わったという現象らしかった。
インナーチャイルドの笑い声が甲高くなり、檻の中から響いている。

ジャッカルへ向き直ったプラチナルチルが、自己紹介またはアナタは誰?とかの言葉を投げかける前に。

(ワタシはだな・・・)

ジャッカルの方から、静かにプラチナルチルへ語りかけてきた。

(心理学的に強いていえば、インナービースト。
科学的に強いていえば、ダークマター。
抽象的に強いていえば・・・そうだな・・・環境かな。
具体的にいえば・・・んー、それは強いても言い表せる言葉がまだ存在しない。
最近でいちばん気に入ってる呼び名は、パラダイムだ)

「パラダイムって?」

ジャッカルは鼻先をツンと上げて。

(手に持ったピンポン玉を離すと、どうなるかな?)

「落ちるわね」

(では・・・)

シャープなフォルムの鼻先を少し回し、

(水の中という環境で、手に持ったピンポン玉を離すと、どうなるかな?)

「浮かぶわね」

(つまり。そういうことだ・・・
今のはパラダイムの説明と、
パラダイムシフトの解説を同時にしてみた)

「そんな環境のシフトが起きるってことなの?」

(起きるのではなく、
もう起きているから、
キミはここへ来れたのだ)

「来れたというより、
押し出されて来てしまった感いっぱいだわ・・・」

プラチナルチルは、
そう肩をすくめた。

ジャッカルは目尻を細め。
プラチナルチルを見透かし、その背中側にある檻へと焦点を当てて。

(離されて浮かんだピンポン玉たちは。
これからどんどん、こっちへ押し出されてくるだろうな・・・)

楽しげな動きで、尻尾を揺らした。

(おわり)

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