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Stones alive complex (Iris Quartz)

悪い王妃は、アイリスの精が宿る魔法の鏡をようやく手に入れ、その前に立った。

のけぞった胸に扇を当てた気取ったポーズで、鏡へと語りかける。

「鏡よ、鏡。
この世でいちばん美しいのは誰か?」

鏡は即答した。

「そりゃあ、ダントツで白雪姫っすね!」

悪い王妃は激怒し配下のものを使い、白雪姫を亡きものにした。

改めて王妃は、魔法の鏡に尋ねた。

「鏡よ、鏡。
この世でいちばん美しいのは誰か?」

鏡は即答した。

「ランキングが繰り上がりまして、今はシンデレラっすね!」

王妃は激怒した。配下のものを使い、シンデレラを亡きものにした。

改めて王妃は魔法の鏡に同じことを尋ねたが、今度の答えはオーロラ姫で、またしても配下のものを使い・・・以下同文。
次の答えはアリエル(リトル・マーメイド)で・・・以下同文。

この流れが続き。
ベル(美女と野獣)、ジャスミン(アラジン)、ポカホンタス、ラプンツェル、アナと雪の女王のタイトルからして間違いやすいけれど主人公のエルサと脇役のアナも葬り去り。

メリダ(メリダとおそろしの森)は、ヒロインにしては本格的な武闘派だったので少々手こずり多大な配下のものの犠牲を払った末に、なんとか葬り去った。

めぼしいキュートなヒロインは漏らさず抹殺したとタカをくくった悪い王妃は、今度こそと鏡の前に立った。

「鏡よ、鏡。
この世でいちばん美しいのは誰か?」

鏡は即答した。

「今は、ハイジっすね!」

そう来たか~!な盲点を突かれた王妃は激怒しようとしたが、なんやかんやのこれまでの疲れがたまっており、もはやその気力も尽きはてていた。
が、なんとか言い返した。

「・・・クララ、じゃない方か?」

「そうっす」

「ハイジとクララなら、誰がどう見ても、クララなのではないのか?!」

「クララは割と下の方のランキングっすね」

鏡はわずかに先生口調の高い声になって、

「美しさというのは、決して見た目だけではなく。
教養や気立ての良さ等の、外面と内面のトータルバランスで評価されるものなのです!」

「・・・ギリギリギリ・・・」

悪い王妃は歯ぎしりした。

魔法の鏡は、ここぞとばかりに積年のなにかを晴らそうという勢いで畳み掛ける。

「それに。
『この世でいちばん美しいのは誰か?』
という効率の悪い質問ではなく。
『現時点で私はランキング何位か?』
ってお尋ねになられる方が、この流れをまだ続けるかどうかの意思決定が早かろうと思われます。
今現在のところ、自分の上にいったい何人のライバルがいるのか?何十人いるのか?何百人いるのか?何千人い・・・」

やめーいっ!
と歯ぎしりしつつ叫んだ悪い王妃は、

「うう・・・
その客観的な順位によっては、プライドが直撃を食らいそうだから、わらわには尋ねる勇気がない・・・」

そう吐き出して、膝を折った。

「意外な小物っぷりすねえ。
それと。
王妃様が葬り去ったと思ってるヒロインたちはちゃっかり無事に生き延びています。しかも、王妃様のイジワルが逆に幸いして運命のお相手と出会っているのです。
王妃様はライバルを蹴落としてるつもりで、結果的に恋のキューピットの役をやらされていたわけっすね」

悪い王妃は、両の拳で大理石の床をぺちぺち叩いていたが、やがて立ち上がり言った。

「鏡よ、鏡。
この世でいちばん人気の高い自己啓発セミナーはどこか?」

魔法の鏡は即答した。

「その程度の情報は魔法に頼らず、
自分でググれっす!」

(おわり)

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