Stones alive complex (Fire Opal)
移動途中に小一時間ほどの休憩のため、
『自分専用ドライビングシアターin大型スーパー駐車場』を設営する。
喫茶店に入るにはめんどくさく。
仮眠するにも次の約束までの時間が少ない。
仮眠グ、soon!
なんちゃって。
平日午後の大型スーパー駐車場は、ゲームが始まったばかりのオセロ盤に似ていて、空白のマス目ばかりだ。
さりげなーい端っこの方へと、車を停める。
助手席をフルフラットにする。
後部座席へは、いつの間にか買い集めていた色調にまるで一貫性がないクッション群をブロック状で並べる。配置はエヴァのコクピットをイメージする。あらゆるものとのシンクロ率が高まるはずだ。
ダッシュボードに乗せたPadの音声出力をBluetoothモバイルスピーカーへと接続する。
まずは一息つくため、短めなYouTube動画でも観るとしよう。
その後にスーパーへ出向き、なるべくヘルシーぽい缶コーヒーとなるべくヘルシーぽい駄菓子を補給しにゆこう。
おっと!
『エースコンバットシリーズ』の最新作トレーラーがアップされてるではないか!
https://youtu.be/cJ5LMPN7hGY
序盤からアドレナリンが鼻の奥でツンとする。
いまだファントムとステルスがガチでドッグファイトしている混迷とした世界観だ。
観終われば、無性に行くあてのない空を探したくなった。
高みに吹き上がるこのテンションの今こそ!ヘルシーぽいものを買い込みにゆくべき時だろう!
助手席側ドアを開き。
暑く煮えたぎった滑走路、じゃなくて、暑く煮えたぎった駐車場の、ええっと正直、梅雨空だから煮えてはいない感じの湿りきったアスファルトへ降り立つ。
スーパーたるものは、午後2時を回ると売り場が撤退戦を余儀なくされる。5時頃から襲来する晩飯買い出し部隊への迎撃に備えて、その戦力を温存せねばならん時間帯だからだ。
スカスカの大駐車場をちらほら横切ってゆく善良なるB級市民の歩みのすごいのろさのせいで、こっちもB級映画のエキストラになった気持ちになる。
酸味が漂う大駐車場のアスファルトの表には離着陸ガイドラインの白線が、人格を奪われたバーコードとして描き込まれており。
大きめの小石が、そのバーコードの間に打たれたピリオドみたいに待っていた。
「どうか遠く遠くへと俺を蹴り飛ばしてくれ!」そう言わんばかりの彼のたたずまいが、駐車場のがらんとあいた面積のど真ん中で、ぽつんという擬音を浮かべている。
誰かのタイヤに踏まれ弾かれでもしたら、この安全地帯を脅かす脅威ともなろう。
駐車場の外界に広がる田園へ向けて、つま先で彼をアタックする。
「ひゃっほっほーう!」
カン、カン、カカーン!と。
アスファルトの上を跳ね、途切れ途切れに転がる衝突音は、そんな歓声に聞こえた。
敬礼し、彼の武運を静かに祈っているところへ、
がらんとした駐車場をなめきった猛スピードで突っ込んできた車高の低い車両からクラクションを鳴らされる。
うおっ!と腰が引けた。
そんな操縦マナーが悪質なパイロットも悪いが、ぼーっと立ち尽くして変な妄想してる邪魔な変質者も悪い。お互い様ってやつだな。悪質パイロットへも敬礼を捧げ、変質度をさらに上げる。
(ここを中心としてとりまく半径5キロ圏内は、自分自身が構築した世界観の縮図でもあるのだ。
その世界観に元ずくことは起こりえる。
元ずかないことは起こりえない)
息を整え、小指の爪を噛む。
こういう予兆があると大概、山盛りの買い物カゴを抱えた女性にレジ前で割り込まれる。
やはり、ヘルシーぽいものの補給が早急に必要というサインだ・・・
真紅のアフターバーナーへぶっこむ燃料を確保しろ!
すべての計器を赤信号にしている張本人は、自らの胸の奥にこそいるのだぞ!
空中戦に例えるならばレーダーはまだ、赤い三角マークの敵影を捕捉してはいない。
彼方の遠い国で、こちらのあずかり知らぬ理由から始まった戦いだとしても、降りかかろうとしてくる火の粉は射程外だろうが先回りして払いにゆかねばならない。
スーパー入口のマットへ近づきながら肩をすぼめたステルスモードに切り替えると、勇ましいテーマ曲もなしに、無慈悲で透明な自動ドアが開く。
(おわり)