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Stones alive complex (Andesine)

ケルトでは一年の始まりは冬である。
なので。
冬に備える秋の収穫が無事に完了し、新年を迎える前日の10月31日が年の終わりであった。

その一年の締めくくりの日には、
死者たちの魂が蘇る。

そして故郷の子孫の家へ帰り、豊作を感謝するお祭りに参加するのだ。
これは日本でいうところの「お盆」に似たイベントである。

だが。
それには、プラス。
お盆とは決定的に異なるイベント設定が追加されていた。

里帰りする祖先たちの魂にこっそりと紛れ、魔界に住まう魔物たちが年末を祝う祭りに便乗して、人間界へ忍び込もうとしてくるのだ。

こいつらの方は。
賄賂方向の手段でうまく丸め込み魔界へとお帰りいただかねば、
来年の家内安全商売繁盛へ、なにかとはた迷惑な影響を及ぼされる。

こうしてケルトの各家庭はこの時期、どこでも魔除けの対策をうっていた。


ドアにノックの音がした。

アンデシンが扉を開けると、小学生くらいの背丈をしたミイラ男とドラキュラと蛇女が袋を下げて立っていた。

その子たちはバラバラに叫んだ。

「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞー!」

アンデシンはにっこり笑い、
差しだされた袋へ用意してあったお菓子を均等に入れてあげた。

三人組の小さな魔物たちは、無邪気なはしゃぎ声で走り去っていった。

アンデシンが扉を閉めようとすると。
またひとりの小学生くらいの背丈をしたカラスの仮面をつけた子が、そそそと走り寄ってきて。

「お菓子をくれなきゃ、深層心理へただちには影響を及ぼさない程度に奥深いイタズラするぞー!」

そうかん高い声で、アンデシンに袋を差し出した。

その子のつぶらで黒目だけの瞳をしばらく覗き込んでから。
アンデシンはいきなりその子の手を袋ごとぐいと引っ張り、
家の中へと無理矢理に連れ込んだ。

「痛てててー!
何すんねん、ネエちゃん!
さっさと菓子くれや!
さもねーとただちに影響を及ぼす程度のイタズラに方針を切り替えっぞ!」

アンデシンは、その子のくちばし全体を右手でつかみ、
バットの素振りのように振り。

「あんたはコスプレ小学生じゃなくて、
マジもんでホンマもんの、魔物だわよね?
このクチバシもこの骨ばった小柄な身体も!
そうでしょ?!」

カラスの小学生は、
ぎょっとして目をぱちぱちしたが。
やがて、観念した態度でバットにされた口を縦に振った。

やはりね。とアンデシンは満足気な顔で、手を離した。

カラス男は、すぐ飛び退いて怒鳴る!

「よくぞ見破ったな!
ホンマもんの魔物だったら、この俺様をどうするつもりだ!」

アンデシンは毅然とした姿勢で答えた。

「来年、うちの車が車検なのよ!!」

・・・

もってゆき場のない空気が沈黙の渦巻きになって、その場をかき混ぜた。
小首を傾げたカラス男が、そのムードを破る。

「・・・え・・・と?
あー。
その件と俺に、はたしてなんの関連性が?」

「手短に説明するからよく聞いてね」

アンデシンは腰に手を当てる。

「ワタシ、来年の車検のタイミングで車を買い換えようと考えてるんだけど。
ほら、今ってハイブリッドカーがぐいぐい発達してきてるでしょ?数年も経てばこの世の中は完全に電気自動車全盛の時代が来るのは確実。だから次に買う車は電気自動車にしたいのだけども、来年中に電気自動車主流の社会が充実するとは思えない。このタイミングでガソリン車買うのは無駄な気がするのだけども、かと言ってこれという完成された電気自動車もすぐには現れてこないであろうと・・・」

カラス男は、
ぽかんとクチバシを開け。

「・・・魔物の俺と、それとに何の関係があるのか、いまだ話が見えてこないのだが・・・?」

アンデシンは、かまわず。

「だから、しょうがなくて。
そんな時代が到来するまでの繋ぎになる車を、自力で開発してみたの!」

ツカツカ大股で部屋の奥まで歩き、
アンデシンはそこの大きな扉を観音開きした。
奥は車庫のようで、ジュラルミン色に輝く若馬のようなツーシーターの車が置かれていた。

「これはね!
電気自動車のさらに先をゆく、
『霊気自動車』なのよ!
ハロウィンまでになんとか完成できたの!
試運転は・・・これからだけどね!」

再び、もってゆき場のない空気が沈黙の渦巻きになって、その場をかき混ぜた。
が。
それはアンデシンの次の言葉が解消した。

「これを走らせるには、
揮発性が高くて燃焼効率が良い、なるべくまがまがしい霊気が燃料として必要なの!」

カラス男は、
聞き終わっても微動だにせず。
ゆっくりと口だけを開いた。

「お前の話の全体像は、ようやく把握できた・・・
俺の理解が正しければ・・・
菓子はいらないから、どうか帰してくれ・・・」

そう、クチバシの端から弱々しい声を漏らした。

アンデシンはカラス男へにじり寄って、おデコをごつんと引っつけた。

「霊力と精力がつくお菓子はたっぷりあげるから、すみやかに大人しく燃料タンクへ入りなさい!
さもなくば、いちぢるしくメンタル面へ影響を及ぼすイタズラするぞー!
今夜中に、あと10体は確保するんだからー!」

(おわり)

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