![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/5017388/rectangle_large_16bf68b81d3a42b2e0132241f5ea59d4.jpg?width=1200)
Stones alive complex (Cantera Opal)
ありふれた朝の恥じらいへ、寡黙なマグマが満たされる。
余分に蓄えたタンパク質を沸点の熱量でいじくられながら製錬される対抗武器にも、あれこれ思うとこはあるだろう。
溶けた岩からは、より具体的な善意の蜜を感じる。
リンゴとハチミツと~ろりとろける反射光。
知恵の実、命の実、羅城の実、混濁合わせ呑みつつ。
『いいえ・・・』
カンテラオパールは反論した。
マグマを胎内に含ませ、ゴロンと寝転がった大きな岩の壺は、彼女の仮の姿。
記憶に残る記念日をランダムに結合する閉じた系の彫り物が、胎の表に施されている。
そのチャンネル数の彫り具合は、過激なほどに丁寧に。
きっと合理性では太刀打ちできない比類なきNever say goodbyeな日々の蓄積が使われているのだ。
『・・・ここは各自、接近戦でゆきましょう。
敵の向こう側で合流ということでよろしいですか?』
「敵と呼ぶには、あれはあまりにもキミと似すぎているね」
カンテラオパールの冷静な声に混じる興奮を指先に伝えながら、羅城の実を拾ってかじった。
甘酸っぱく良識のサイドブレーキが外される。
亜高速無軌道ドライブが起動し、一気に精神が反転した。簡単に言えば、開き直った。
もうあれこれ自分に命じることは誰にもできないってことに、まだ慣れてない。
もっとも命令に従うことは、これまでだって多くはなかった。
相手が誰であれ。
『アナタは右を、ワタシは左の群れを』
ビブラートするカンテラオパールの声は、まるでピザを注文して盛り目でトッピングを指定している時のように抑揚がうずいていた。
「右後方にスタンバイした。
武器の製錬は、どんな感じか?」
『もう、できます』
濾過工程による肌色の煙が噴き出す。
デストルドーのマグマの中では、何物も無機物でいるのは困難だ。
いずれにせよ、スピーディーで食物連鎖基準の対処が求められてる戦況。
現実世界のしがらみからは面会謝絶クオリティで隔離されてゆき。
ぽこぽこした湯玉が弾ける音で特殊な旋律の歌が歌われたら、
民族的なトラウマ反応から攻め込まれてしまい。
『いや、もうこれ以上はお構いなく』っぽいこと早く言わなきゃ前向きなベクトルが萎縮してしまう。
毎日とは、こんな実験ばかりだ。
昨日は煮込んだ野菜にカレールーを入れたら、カレーになった。同じことをしたら、今日もカレーになっちゃった。本当はシチューが作りたいのに。明日こそ、具材と段取りは変えずにシチューが作れるかもしれないから頑張る。
良く言えば、よそ見などしないまっすぐなそんな思考。
悪く言えば、ちっとやそっとじゃ曲げられないヘソは曲がってる思考。
うまく行かない手順は、これからとろ~り溶かされる。
貴重な天然資源である対抗武器は、マグマから飛び散るタンパク質が正確に分割している夜明けをバックに、次世代型の骨格として組みあがっていく。
蛇の道は蛇。
謝の道はヘビー。
抜きたもう蛇剣。
戦意の拠りどころとして。
姫様が笑うとるから大丈夫じゃ、ぐらいのゆるい根拠は欲しいとこ。
うっすらゆるく、カンテラオパールは笑うとる。
『前方!来ました!
かなりの量の美人汁が吹き出してる同調圧力です!』
どっちみち。
生きてる意味など確かめなくても、生きている。
(おわり)