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Stones alive complex (Smithsonite)
洞窟のいちばん奥まで行ったところにある、広がった空間。
その空間の側面の岩盤を切り出した壁全体が、大きな販売機となっている。
手が届く高さにコインの投入口と、ひとつのレバーがある。
その反対側の壁は透明で巨大なケースになっていて、子象サイズくらいの球体が幾つもぎっしり入っているのが見える。
スミソナイトに促され、ボクは持ってきたアズテガ銀貨を投入口へ入れる。
それを見届けると彼女は、感慨深げに言った。
「このドラゴンの卵のガチャポンを動かすのは、何世紀ぶりでしょうか・・・」
ボクの横に並んで立ち。
「古の先史人たちは子供たちが思春期になるとここへ連れてきました。
子供たちへ一生のパートナーとなるドラゴンを授けることで、成人と認める文明があったのです。
その文明は化石燃料を利用する産業文明が起こる頃には、すっかり衰退してしまいました」
販売機の壁を愛おしげに撫でて、
「パートナーとなったドラゴンは人生の行くべき道を示し、
逆らえない衝動という形でその者の行く末まで運命に寄り添い、
定めに従って突き動かしてゆきます」
でも、ボクは現代人だよ?
授けられてもガチャポンドラゴンの育て方なんて知らないよ。
「関わっていくうちに飼い慣らし方を学んでゆくのです。
自分が授けられたドラゴンが、
何を好んで食べるのか、
何をさせてあげれば喜ぶのか、などを。
それが、生きるべき方向性の選択に必要な示唆となります」
ほんとうに、ファンタジー映画みたいなドラゴンが出てくるのかい?
「そうです。
出てくるのは見た目もまさしくドラゴンドラゴンしたドラゴンです。
ただ、ドラゴンというのは、一種のメタファーだと考えてください」
意味深な素振りで言葉の間を置き、
「ドラゴンとは、後天的に与えられる魂みたいなもの。
思春期あたりで誰でもその時期特有に沸き起こってくる、
生きる意味とは何だ?
自分とは何なのだ!な類の、
青臭っさいけど根幹的な疑問に対し、非言語系のレベルで授けられる明確なる解答なのです。
RPGでいうところのジョブの選択のようなものだとも言えましょうか。
なので、このドラゴンが封入されてないと人は少々ややこしい事になります。
芯の埋まるべきところにぽっかり穴が空いたような空虚感のまんま緩慢に生きてゆくことになるか。
永遠に潜在的中二病が治らない状態でイキがったまんまやんちゃこいた大人を続けてゆくことになるか・・・」
うわ。
いろいろと思い当たりすぎるーっ!!
それを聞いて、改めてケースの中を遠くからのぞき込む。
いろんな色の卵があるよね。
それは好きに選べないような仕組みなんだね、ガチャポンだけに。
「なにが選ばれ出てくるのかは分かりません、ガチャポンだけに。
神のみぞ知るを超越した、これは神をも知らない領域からなされる選択なのです」
彼女は、腰に差していた短剣をすっと抜いた。
「分かっているのは卵は基本13種類あるということ。
そして、極々まれにシークレットタイプが出てくるらしいのです。
ワタシの使命は、
選び出されたドラゴンの尻尾を押さえつけ、その先をこの契約のナイフで少し切り。
その龍血を、授かる者のとある契約の部分に塗ってドラゴンと魂の契約を結ばせるのが役目なのです」
シークレットというのは?
「具体的なことはワタシもよく知らないのです。
ワタシは13種類のすべてに対応できる経験は積んできましたが。
ワタシの担当の時は、これまでシークレットは一度も出たことがありません。
あくまで噂なのですが。
そいつはドラゴンドラゴンしたノーマルなドラゴンじゃなくて、
もっと激しくドラゴンドラゴンドラゴンしたアブノーマルなドラゴンドラゴンらしいそうです」
そのくどい表現の説明からなんとなく感じ取れるのは、
かなりなハイリスクハイリターンなタイプのようですけど。
そして、この話の流れには明らかにフラグが立っていて、
これからそのシークレットが出てくる予感しかしないのだが・・・
さて、そろそろ参りましょうか・・・
とスミソナイトがボクの手を取り、
レバーを持たせる。
一気に勢いをつけて、レバーを一緒に下ろす。
透明なケースの下の扉が観音開きして!
ごろごろんと多角形の網目模様の卵が転がり出てきた。
原色に近い淡青色で、太い鎖でぐるぐる巻きにされたような模様の殻だ。
ぐごお!ぐごお!と転がる卵の中から唸り声がし、表面がひび割れてゆく。
限界まで目を丸くしてスミソナイトは、
契約のナイフを握りしめ、
意を決する眉をつり上げた表情になると、頼もしく身構えた。
ボクとスミソナイトにぶつかる直前でその卵は砕けて、割れ。
根元で繋がった三つの首と四枚の翼を持つドラゴンが、六本の足をばたつかせて姿を現した。
そしてそいつは、九本ある尻尾を孔雀のように広げて、我々を威嚇した!
その瞬間スミソナイトは、さっきとは別な意を決する、眉をへなっと下げた顔になり。
ふいに契約のナイフをボクの手に押し付けると、その姿勢のまま後ずさって言った。
「それでは。ワタシは洞窟の外に出ております。
外に出ましたら、いいですわよー!と合図しますので。
そしたら契約の儀式を執り行ってくださいましね・・・」
ちょ、ちょっとー!
聞いてる段取りとぜんぜん違うんだけどー!
そうボクは、洞窟の出口へそろそろ歩き出すスミソナイトへ叫んだが。
「終わったら、呼んでくださいましね・・・」
スミソナイトはそろそろ歩きから、小走りになった。
やっぱりなもんが出たっぽいけどー!!
せめて教えてけよーっ!
さっき聞きそびれちゃった、
とある契約の部分って、どこよーっ?!!
おーい!!
(おわり)