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Stones alive complex (Kyanite)

花装人間らしい枯れ知らずな快活さだった。
雲を突き抜けて建てられている空中庭園の受付嬢は、
潤いのある眼をずっとぱちくりさせているが、列をなす来客を効率よくさばき。
ひとりひとりの案内が終わるたびに生花の制服に手を触れて鮮度をチェックすると、
こまめに花の茎へジョウロで水を注いでいる。

ガヤガヤ喋り散らかす来客たちが、
磨きあげられた頑丈な大理石の螺旋階段を、
巡礼者の足取りで地上から次々と受付フロアまで登ってくる。

ボクの目の前に並んでいる受付待ちの先客たちは、
自分がアポをとってる導師の室番号を花の受付嬢から聞き、
期待に溢れた顔を輝かせながら、さらに上への階段へ向かったり、
このフロアのどこかにある部屋へと番号を頼りに歩き出してゆく。

順番が来たので、
ボクはカウンターのところへ進んだ。

受付嬢は、思い出し笑いしてるように、くすくす接客スマイルしている。

大木の横枝を削ったカウンターに座り、
別の横木から生えてるその受付嬢はボクへの応対を始めた。

「どんな御用件でしょうか?」

うまく言葉が出ず、しどろもどろになりながら、

「ええっと・・・
カイヤナイト導師様の室はどこでしょうか?
実は、アポの時間よりちょっと遅れてしまったのですが・・・」

受付票を確認した受付嬢は、

「カイヤナイト導師でしたら前の予約の方がもう帰られて。
ただ今、自動販売機コーナーで休憩中ですね。
次の御予約の方とは自動販売機コーナーでお会いすると、伺っております」

「それって、ボクのこと?
自動販売機コーナーで?」

「はい。
あちらの、亜熱帯植物園の中にあるコーナーです。
カイヤナイト導師はそこで、なんの罪もないいたいけなコーヒー豆たちを情け容赦なくすり潰し、原形が奪われた彼らを、地獄の温度の熱水で蒸らし、挙句の果てに魂の成分だけを絞り出した邪悪な水溶液を楽しんでおられます」

受付嬢は、
楽しそうにそう言うと、
花びらを振りまきながら細い枝の指で亜熱帯植物園を示した。

案内に従い自動販売機コーナーに入ると、
カイヤナイト導師らしきインディゴ色に染めた道着を身にまとう男がひとり、簡素なアルミのテーブルにいた。
近づくボクに気がついて、飲んでいた缶コーヒーを物憂げに口から離す。

「キミは、予約の者かね?」

「はい。
カイヤナイト導師様でいらっしゃいますか?」

「いかにも。
座りたまえ。
さて、ワシに何を尋ねたいのかね?」

ボクは、
導師の正面に行儀よく座った。

「さっそくながら、お伺いします。
意識高い系と自意識高い系の違いがどうしても分からないのです。
どうか御教授をお願いいたします」

導師は、
缶コーヒーをひと口飲み、

「キミは、どう考えるのかな?」

「この仕事なら儲かる、と、この仕事なら儲からなくてもいい、のスタンスの違いでしょうか・・・?」

「仕事も儲けも手段であって、それは目的ではない」

ルネッサンス彫刻の表情で導師は即答し、
その言葉の揺るぎなさと分かりにくさが、
眉間をむずむずさせた。

「どういうことでしょうか?
恋愛に例えるとしたら。
この人なら幸せにしてくれる、と、この人となら不幸になってもいい、
の違いと考えていたのですが?」

「幸も不幸も手段であって、それが目的ではない」

続けて、

「それにな。
意識も自意識も、それの高い低いすら手段の違いなのであって。
目的の必要に応じ、高くしたり低くしたりすればいい」

導師は真理の深遠な気配を感じるように、
ゆるやかにボクから細目をそらした。
その研ぎ澄まされた視線の先には、
亜熱帯植物たちの隙間から垣間見える受付嬢がいた。

「導師がおっしってる目的とは、
いったい何なのですか?!!」

あえてにボクは声を荒らげ、正面から見すえて尋ねた。

導師は、真剣なのか面倒臭いのか区別しずらい顔つきになり、
ボクをそんな横目で捉え、答える。

「それをぴったり言い表せる言語が、まだこの世には存在していない。
目的というものの理解と実感は、それゆえに甘くないのだ」

「どうやったら、その目的というものは見いだせるのですか?」

「見いだすだけなら、簡単だよ」

「え?簡単なんですか?
さっき甘くないって・・・」

「キミの後ろの自動販売機で売ってるから、目的なら」

振り返ると、
後ろの自動販売機に、目的が何種類も缶に入れられ売られていた。

カイヤナイト導師はこの会話が始まって初めて、
ここは大事!と伝わってくるイントネーションになり、甲高く言う。

「だがくれぐれも目的は慎重に選べ!
加糖を目指す段階は、とうに過ぎている!トウのシャレではなくだ!
生き様のカフェインにコミットするならば、
低糖も悪くないが、その隣にある微糖を強くお勧めする。
本当にそっちは微妙な物足りなさで甘くないから!
無糖に関しては・・・
ワシが今のキミに言えることがあるとしたら、
いずれ訪れるであろう、大いなるテトラパックの予兆まで待つのだ!」

「疑問が増すばかりなのですが・・・
微糖と低糖って、どう違うんですか・・・?」

カイヤナイト導師は、
深く威厳のあるシワを眉の間に立てる。

「それだけは・・・さすがのワシでもよく分からないのだよ・・・
自ら買い取り、その舌で学び、テイストしてゆきなさい。
小銭は持ってるかね?」

(おわり)

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