Stones alive complex (Red Amber)
たくさんの赤血球の子たちが、あまりに近くまで群がるため。
その親しげで柔らかい衝突に連打されたレッドアンバーのボディは、銅鑼のように鳴らされる。
(順番によ!
オヤツに飛びついてくる赤い園児たち!)
赤血球の女王であるレッドアンバーは、
そんな指示などお構い無しな子らの様子に、嬉しそうな悲鳴で笑う。
血流の行く手に控えてる赤血球たちも、レッドアンバーが両手から放射するオヤツを狙ってその体積を精いっぱいに膨らませ口を開けている。
前に待ち伏せているもの、後から追いかけてくるもの、両方に追いつかれてしまうとそこで流れを止めてしまう塊になってしまうから。
レッドアンバーはつかず離れずの速力を保ち、定時のオヤツを配っていた。
真正面に、陽気な待ち伏せの一群がまた並んで跳ねている。
レッドアンバーは、
それらと血管の壁との、わずかに隙がある右斜め上へ方向転換しようと、
水流にあえて逆うキックをして、急カーブを切った。
待ち伏せてる赤血球の子らを、こりゃ幼児のわてらじゃ追跡不可能と諦めさせる素早さで牽制しながら、
壁との隙間へ滑り込んで、彼らの背後へ回り込む。
赤血球の子らが同時に、あっ!と振り向き並んだその口へ、
彼らの底部を横滑りの体勢から、
レッドアンバーの手は見事にオヤツをぽぽぽぽっ、と漏れることなく放り込んだ。
レッドアンバーからオヤツを吸収した赤血球たちは、
1.5度アップの健全な微熱を帯び、柔軟さも増して2段階ほどギアを上げた活性体になった。
レッドアンバーのほがらかな笑いが血管内をこだまして、
赤血球の子らとのいつものそんな鬼ごっこは続いたが。
ふいに、それは。
ゴゴゴゴゴ!という、お腹に響く反響音でかき消された。
(おっとまさかこれは・・・?)
レッドアンバーはふくらはぎの推進エンジンを弱め、周波知覚の感度を上げて確かめる。
(まさかの太陽から特別な支援物資投下なの!?
進化促進度レベル5クラス!
メラトニンポイントが、いつもの10倍お得な客様感謝デー?!
こんな時期に?!
いや、こんな時期だからか・・・)
血管壁に配線されてる神経経由で体外の様子をモニターしてみれば。
外皮膚が検知したデーターをまとめあげたレッドアンバーのイメージマトリックスに、
こちらへ降り注いでくる進化促進栄養素の丸みを帯びた仮想ビジュアルが見えた。
それは偶然の一致ではなく、赤血球と同じフォルムをしていた。
波紋を放ちながら飛んでくるそれらの中には、月と同じくらいの幅のものもある。
軽くかすっただけでもテンションが合わないものは、メンタル的に弾き飛ばされてしまうだろう。
だが。
女王であるレッドアンバーはコア部に、そんな時用の周波数変圧器を備えていたが、
赤血球の子らにあるのは原始的な反射本能だけだった。
とはいえ、すでに。
左に右に前に後ろに。
その支援物資は、まるで牽引ケーブルで引っぱられているかのように、次々と血管内に降りてくる。
赤血球の子らはしばらく珍しそうにその光景を眺め、
オヤツどころか高級洋菓子のトランス性ハイカロリーの香りにすぐ食欲をそそられ、我先にかじりついた。
(ちょっと、待ちなさい!
これは離乳食としては、まだ昇圧が硬すぎるわ!
噛み砕いてあげるから、それまでみんなお座りして待機してなさい!)
レッドアンバーは、
コア部の変圧器を胸郭から露出させ、
大人味の硬いクッキーをミルクで溶かすように、
血中水分の構成を変え始めた。
(おわり)