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Stones alive complex (Andesine)

乗り込んだタイヤまで赤いタクシーは、シートや天井などの内装も赤かった。

「お客様、どちらまで?」

赤い運転席から赤い後部座席へと赤らんだ目つきで微笑む運転手さんの、制服も帽子も赤かった。

「伊勢市駅前まで、お願いします」

「エゼキエルの街までですね。了解しました」

え?
ちょと違います!いや全然違います!
エゼキエルってなにそれどこ?

言い正す前に運転手さんは張り切って、赤い手袋で赤いハンドルを握る。

そして。
まさかとは思うがそこまで赤いのか?と予想される赤いアクセルペダルを、静かに踏み込んだのだ。

ドアの向こうに映っていた山深い大紀町瀧原の風景が、残像となって流れる。

「到着しました」

山深い風景が、一瞬にして古代の街並みに変わっていた。

石組みでできた神殿のまわりに、
質素な布だけを巻いた服装の人々が、慌ただしく歩いている。

自動でタクシーのドアが開く。

思わず降りてしまった・・・

「ちょ、ちょっとそこで待っててくださいね運転手さん!
勝手に置き去りにしないでね!」

運転手さんへ頼んでおく。

広々とした石畳にたむろい、くつろいでいた鳩たちがポポッ?と小首をあげてこちらを睨み、ジョン・ウーの映画みたいにいっせいに飛び交い視界を遮る。

その鳩のカーテンを突き破って、赤いずきんをかぶった少女が走り出てきた。

軽くぶつかる。

その子が持っていたバスケットから、パンがひとつ転がり落ちた。

拾って手渡そうと・・・

「そのパンに似ている石は、アナタにあげるわ!アンデス級な高次の予知夢と繋がる御守りで、持ってたら血液も若返るわよ!
ワタシは、おばあさんがオオカミに食べられちゃったから、猟師さんより先に助けに行かなきゃならないの。
そこそこ急いでいるから、これでさよなら!
あーもう!白血球が、邪魔!」

パン?を受け取らずに、バスケットから抜いた二丁拳銃で鳩を威嚇しながら走り去る。

ちょ、ちょっと!赤いずきんのお嬢さん?
その情報はストーリー的にまだ知らないはずなんじゃ・・・?

二、三歩追いかける。

その進路を遮り、赤い靴を履いた少女がひしと抱きついてきた。

「異人さんから逃げてきたの!
どうか助けて!」

お、おう・・・?!

慌ててタクシーの中へ少女の細い身体を押し込む。

入れ替わりですぐに、背の高い異人さんがタクシーの横を小走りで通り過ぎていった。

恐る恐る様子をうかがいながらタクシーから降りてきた少女は、

「ありがとうございます。
これはお礼です。
連れ去られてる隙に、異人さんの懐からこっそり抜いたものです」

古代のコインを三枚、こちらの手に握らせる。

「一枚は、お賽銭に。
一枚は、タクシー代に。
一枚は、すぐに使うことになります」

少女は異人さんとは逆方向へ赤い靴をカッカッカッと鳴らしダッシュで消えた。
自力でも楽勝で逃げきれたっぽいその逃亡スピード(かつ盗難スキル)を見送っていたら、誰かがお尻をつっつく。

振り返り見下ろせば、赤いスカートの少女が切なげなオーラを醸し出して立っていた。
腕にさげたカゴから何かを取り出す。

「このマッチを買ってくださいませんか?
スペシャルなマッチです。
これの赤い火は、今ワタシたちがいるこの視床下部へ流れ込む血流量をアクセルベタ踏みで増加させる視覚効果があるんですよ!」

「火なら。
ライター持ってるから、いらないよ」

赤いスカートの少女は、
カゴから別の何かを取り出した。

「じゃあ。
この赤い狐スペシャルか緑の狸スペシャルを買ってください」

二種類のカップ麺を差し出してくる。
いたいけな少女が切なげに売るマッチをさっき断ったことが、胸のとこの偽善心へ刺さってたので。

「えっと・・・それなら・・・
真っ赤っかの世界に色が映えてるから。
赤じゃない緑の方を・・・」

「はい!どうぞ!
この緑の狸スペシャルの麺には、今ワタシたちがいるこの視床下部に流れ込む血流量をアクセルベタ踏みで増加させる栄養素がふんだんに入っているんですよ!」

「ちなみに。赤い狐の方には?」

「この赤い狐スペシャルの方には、今ワタシたちがいるこの視床下部に流れ込む血流量をアクセルベタ踏みで増加させる栄養素がふんだんに入っているんですよ!」

なんだ。
みんな同じ効果なのな。

さっき貰ったコインの一枚を払い、買う。

マッチ&カップ麺売りの少女は、
おじぎして赤いスカートをひるがえすと、次の見込み客を探しスキップしていった。

赤いタクシーのウインドウが開き、
赤い運転手さんが声をかけてくる。

「どうやら。
お供え物が、ぜんぶ揃ったみたいですね・・・」

誘い込まれるように、
タクシーへふたたび乗り込んだ。
ポケットへ、パン風の石と古代のコインと緑の狸スペシャルをねじこむ。

「お客様、今度はどちらまで?」

「今度こそ、伊・・・」

まだ言ってる途中なのに運転手さんが復唱する。

「伊勢市駅前ですね。
了解いたしました」

発車する直前に、後部座席から身を乗り出して気になっていたことを確認してみる。

運転手さんの赤い靴は、赤いアクセルペダルを踏みこんでいた。

(おわり)

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