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Stones alive complex (Sunstone)


「わかった、わかってるって!
30分後にまた電話するよ、絶対に!」

煉獄の魔法使いはスマホを切ろうとして、数秒迷い、また耳へくっつけた。

「それか、そっちから電話してきてくれてもいい!
40分後なら、たぶんこっちの件は片付いてるから・・・
待て待て言い直す、だぶんじゃない!
確実に片付いてるって!
ああわかってるよ!
その投稿が君にとって重要だってことは。
いや悪かった、わかってるとも、僕にとっても重要だよね!
僕だって助けたいさ!
もちろんだよ!
どんだけ手間取っても、とにかくかっこよく救い出すのが僕のモットーだからな。
10億回再生は保証するよ!
必ず君もかっこよく助けるから!
え?
も、って言った僕?
言ってないって!
必ず君、を、助けたいって言ったよ!
細かいとこほじくらないでくれ!
待たせてるのは悪いと思ってるけど。
こっちは予約でいっぱいなんだ、そこらへん理解してくれよ!
は?
だれもキャンセルするなんて言ってないじゃないか!
あーおけおけ、ああ、わかってるよ。うん。
とにかく40分だけ、待っててくれ。
演出はキメッキメになるよう、念入りに打ち合わせしよう。
じゃあ、後ほどね・・・」

今度は電話をちゃんと切り、彼はしばらく頭の中で今からのスケジュールを整頓して、後ろを振り返った。

銀色の月へ突き刺さった、赤い槍を見上げる。
その槍は逆行に浮かぶ岩山の頂上に建つ、泡沫(うたかた)の城。
城のすべての窓からは、内部で轟々と燃えさかる炎が噴き出し、紅蓮と染まっている。
その憤怒の火焔を吹いた怪物は、岩山の側面から麓へ垂れ下がる小道を飛び越え、先回りしてきた。彼に奪われた宝石を追って。

その宝石さんは道端の岩へ座り、待ちくたびれてメーク直しをしてる。マスカラを濃くしてる秘石姫へ、彼は愛想笑いをしてみるが、宝石はチラ見しただけでつんと無視された。

肩をすくめ、正面へ向き直る彼。
彼らの逃げ道をふさいでいる怪物がいる。
待ちくたびれ、鋭い牙で鋭い爪を神経質に噛んでいる厭世のドラゴンがいた。大きく手を振り、ほおづえをつくそいつへ合図を送る。
ドラゴンは全開のあくびをしてアゴをしゃくり、彼を睨んだ。

「おふた方、たいへん長らくお待たせをした。
お待たせし過ぎたかもしれませぬ」

彼を前後にはさんでる姫とドラゴンは同時にのっそり立ちあがり、ドラゴンは後ろ脚のひざにべっとり付いた土を、姫はぱんぱんとお尻の砂をはらう。

姫は、座ってた岩に三脚で固定してたスマホカメラの録画ボタンを押して、怯えた顔つきを作り彼の背中へしがみつくと、かわゆく震え始めた。

彼は背中へささやく。

「いいとこで中断させて申し訳なかった。
うまく編集しといてね。
10億回再生は保証するよ。
では、続けるね・・・」

煉獄の魔法使いは、考え抜いたかっこいいポーズで身構える。

「我が必殺の、かっこいい魔法を喰らうがよい!
邪悪なるドラゴンよ。
そして、元いた冥府へ無様に堕ちよ!」

続き、考え抜いたかっこいい魔法の詠唱を始める。

『我が左の拳は銀のつぶて。
我が右の指先は金の槍。

アズラエルの石版とサバジオスの杖に祈る。
鼓舞ナインティーンの嵐には壁を立てよ。
四方の門は閉じ、皇位より出で、皇国へ至る三叉路は鎮魂せよ。

地を開け。海を開け。天を開け。
亡国のファントムペインを繰り返すつど、
聖域のエリンヘリアルはリベリオンするだろう!

ここに、告げよう。
汝の身は我が心臓へ、汝の命運は我が摂理へ。
傀儡として従い、その懺悔で、この理に従うならばひれ伏せ。

我は冥府すべての邪神を屠る者。
我は常世すべての姫君を救済せし者。
その眼に映す最後の輝きこそは、我の影なり。

汝、火焔の檻に囚われし者となれ。
我は、その輪廻の鎖をたぐる者。

さあ、覚悟せよ!
厭世の竜よ!』

出せる攻撃魔法はごく普通の電撃のみだけど口上だけは映えててかっこいいとネットでバズった魔法使いは、ドラゴンへ技を撃つ前に、小さくつぶやく。

(ったくもうっ!
ファンタジー世界にYouTuber流行らせたのは誰やねんっ!)

(おわり)

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