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Stones alive complex (Himalayan crystal)

寝言というには明瞭すぎる声で、モゴモゴうなってる内容は、うわ言というより懺悔の口調だった。

『ここの人類と呼ばれている生命体は。
我々がプロトタイプとして、
カテゴリーAからDまでの四種類を試作したものだが・・・』

そろりとタオルケットをまくって起きあがり、豆電球の薄明かりの中をそいつが寝ている、というか、貼りついてる天井の下まで這ってゆき、息をひそめて一心に耳をすました。

『カテゴリーAの爬虫類との掛け合わせタイプは、知能が460%も向上した。
かなり出来が良かったから、こんな僻地で繁殖させるにはもったいないってことで、全員を母星に回収した・・・
ただ、この爬虫類人種は繁殖力がいまいち弱い』

居酒屋で隣の席から絡んできた時はしゃんとしてたのに、こいつは酔いつぶれたらぐにゃぐにゃになりやがった。
初対面なのに、小一時間ほど一緒に飲んで盛り上がったのはよかったのだけど。

あちゃー!終電逃しちゃったよ今夜泊めてー!

何言ってんだおまえ、まだ九時だぞ。

ここの電車のことじゃねえよ、最終電界移送ポータル時間のことだよ。

なんだよそれ?

次は明日の10時までポータルが開かないんだよぉ、泊めてくれよぉ。

『カテゴリーBは、植物との掛け合わせだった。
しかし、我々の遺伝子よりも植物の遺伝子形態の方が優生になってしまい、高度な知性を備えながらもコミュニケーション不可能な地生生物になってしまった』

わかったよもう・・・泊めてやるよ、だけど狭い四畳半だぜ俺ん家は。

大丈夫大丈夫!私は部屋を三次元的に活用できるからね。

そうなのか・・・?

ああ大丈夫だ、そうと決まればじゃんじゃん飲もうぜ、これはカテゴリーBを発酵させたのか?めちゃうめえ飲み物を作ったな、繁殖以外にも知能を使えるようになったとは感心したよ!シブみが骨まで染みるぜって骨ねえけどもな私は!

なんだよカテゴリーBって、これは日本酒だぜ?

その件については後でゆっくり説明してやるよカテゴリーCの君にね。

なんだよカテゴリーCって?

そのまんま説明もなく、こいつはどんどん酔いつぶれていった。

『カテゴリーCは、哺乳類との掛け合わせだった。このタイプは、まずまず成功したと言える。
知能が32%ほどだったが向上した。
難点があるとしたら、せっかく向上した知能の分をぜんぶ繁殖相手探しに使ってしまってるところだが、おかげで必要数まで自然増加するのにわずか数千年程度くらいだろう。もう少しの辛抱で、母星の過剰労働問題は回避される。
我々の労働を肩代わりできるまで教育するには、多少手こずるかもしれないが・・・』

ここの食い物は種類がたくさんあって、みんなうめえな、特にこれはこりこりしてて絶品だ、なんて食い物なんだ?

これはタコブツだよ。

タコブツ?

タコをブツ切りにしたからタコブツだよ。

タコってなんだ?

タコを知らないのかよ、ほら、これだよ。

スマホで検索した画像を見せてやる。
するとこいつは突然気分が悪くなったらしく、もう帰りたいよぉお前の家まで連れてってくれよぉと頼み込んできた。
ぐにゃぐにゃになり気を失ったこいつの身体を背負って、連れ帰ってきた。

『カテゴリーDは、この星の海洋生物との掛け合わせだった。
その形態はほぼ我々と同じになったが、残念ながら知能の向上は認められなかった。
知能の向上が無かった人工生物は生態系への悪影響を考慮して抹消すべきだが、その姿を見てしまうと忍びない。どうか平和にここで生きていってくれと、ぜんぶの個体を海へ放流することにした・・・』

こいつは天井に吸盤で貼りつきながら、寝言にしては明瞭な泣き声をたてはじめた。
挙句の果てには嗚咽のたびに、下から見上げてる俺へ真っ黒なスミを吹いた。

(おわり)

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