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Stones alive complex (Andesine)
ヒーリングCDを、コーラス天使の唇へ難儀して押し込む。
ちゃんとローディングできたしるしに、バキバキという咀嚼音がし、ややあってアヴェ・マリアを歌いだした。
粉砕したデジタルメディアをもデコードできる、天使の喉ごし。
スピーカーは両手両膝両胸に計6台。完璧にこの治療室用にセッティングがされていて、あたかも6人の天使の輪唱となるように反響した。
きめの細かい翼は反響板になっている。広げたり閉じたりすれば、氷山が割れる高音、マグマがうねる低音、空間を拡張してゆくサラウンド。シングルベッドが波打つ。
仰向けに寝転び、シーツに乗せた指をメロディーに合わせて軽く指揮しながら、天井を眺めた。
キャンドルに照る壁面に囲まれ、
私の自尊心が、種別に三つ浮かんでいる。
褐色の卵に似たそれぞれは、瞳にも似ていて柔らかく見返してくる。大きさはバレーボールくらいか。
天地の間には、人智が思いも及ばぬものがある。
天井と床の間にも、こうしてたまにある。
生を受けてから今日まで数えきれないほど挫折してきたが、自尊心以外は無傷だ。
まず、天使のヴォーカルは自尊心の表面を消毒し始める。
長いものから短いものまで縦横にはいった傷へ、ジェル状の四分休符が張り付いてゆく。その前処理に一、二分かかった。
続く高揚した歌の旋律がトラウマの膿を傷から絞り出した時、軽い抵抗感をおぼえた。それはトラウマというものをなんとか有効活用しようと目論んできた無意識のあがき。
その目論見で多少のメリットは得てきたにしても、副作用はやっかいなものだった。
主処置の薬液として、祈りの歌詞から流れ落ちる16分音符がソプラノで塗布される。
音は無臭。
ほのかに白檀の香りがしてくるのは、
この光景から想像した嗅覚の錯覚だろう。
薬が乾く前に。
冷たい夜風の足踏みの五線譜が、包帯として自尊心へと巻きつく。
五里霧中へ踏み入る未来への地図。
激しさの割には妥協点が噛み合わない熱弁。
既得権益が湾曲させる安全保障上のデッドライン。
自分のせいか社会のせいか。
この疑問の対立軸は、社会の内包物として育まれてきた自分という立体構造から考察すれば、軸としての意味をなさない。
推してしかるべし。知らんけど。
どうか。
冤罪で裁かれた傷が癒え、
無矛盾な祈りの鎧がまといますように・・・
アーメン(意味:マジでな!)
(おわり)