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Stones alive complex (Eudialyte)
「ぷはぁ・・・!」
黒いマントをひるがえしたタキシードのイケメン男は、女のむきだしの下腹から唇を離した。
「いやん!ちょっと待ってん!
それだけなのん?!」
女は気だるげに恍惚と台から起き上がり、不満げなおえつを漏らした。
なお。早めに念をおしておくが、これはえっちな物語ではない。ちょっと期待したあなた申し訳ない。
両腕を素早く突き出した女は、下腹から遠ざかるタキシード男のポマードでぴっちり整えられた頭髪をつかみ、すんごい腕力で自分の下腹へ引き戻した。
そもそもから呼吸はしてないが、息苦しそうにタキシード男はもがく。
天井からぶら下がり、ここまでの施術を見守っていたスタッフのコウモリが数匹、彼女の指へ飛びかかった!
お客様の肌に傷をつけないよう細心の注意をはらった力加減で爪をたて、主人の頭髪を鷲づかんでる女の指をはぎ取った。
「もう、お時間です!お客様!
どうか離れてください!」
「噛んで、もっと噛んでーっ!
次は二の腕を!
できたら、太腿もー!」
タキシード男は、そもそもから汗はかかないが、滝の汗をぬぐう仕草をして施術台から飛び退く。
そもそもから呼吸はしてないが、壁際に張りついてはあはあし。
スタッフのコウモリたちと格闘してるお客様を、震えながら見つめた。
彼はそもそもから青白いが、青ざめた顔で失神しそうだった。
女は施術台から降りてタキシード男に迫ろうとし、スタッフのコウモリ全員が黒い壁となって、それをさえぎってる。
「戻ってきて!脂肪吸引器!」
女はコウモリの壁から手だけを突き出す。
「余は脂肪吸引器では、ない!
誇り高き吸血鬼だ!」
かつては巧みな手練手管を駆使して誘惑し、獲物を連れ込んでたゴージャスな居間を質素に改装した施術室を、彼はプリプリ怒った大股で出てゆく。
その後をスタッフのコウモリが、なだめに追いかけた。
「しょうがないでしょ!
御主人様は今は、吸血じゃなくて吸脂肪鬼なんですから!」
「無理無理、もう無理!
体質を変えて脂肪も吸えるようにしたこともかなりの無理があったが!
来る客が多すぎる!
もう吸えない!
おなかいっぱい!腹八十分目!
もう限界、無理無理ーっ!」
「血と一緒に脂肪も吸えるようになれば、
獲物の方からのこのこやってくる!ってアイディアを考えついたのは、御主人様あなたじゃないですか!」
「そうなんだけども!
こんなにも需要があるとは・・・
集客見積もりが甘すぎたのだ!」
半泣きの目を押さえ暗闇の舘の外へとダッシュで逃亡する、
吸血(&脂肪)鬼!
が。
すぐ折り返してきて。
暗闇の森の奥にそびえ立つこの洋館の入口で、
カラフルな点滅をしてる、
『永遠の若さとスリムなプロポーションが、
ほんの少しの出血であなたのものに!!』
という、ネオンサインを取り外すと、
暗闇の森の外まで並んでるご婦人方の行列の前で、
バキッ!と叩き壊した。
(おわり)