Stones alive complex (Black tourmaline)
身近なものの中にこそ潜む宇宙法則のことを、
よくブラックトルマリンは口にする。
へし折れた切り株から、倍返しで成長する大樹のように。
傷ついた部分ほど、力強い新芽が生まれようとするもの。
その裂け目の闇を押し広げ、はみ出てくるケイ酸塩鉱物が、
空気の熱に触れ、未完成なルーレットの回転板から勢いつきすぎて飛んでくウェブ声の初声をあげる。
それがブラックトルマリンの結晶体を、形作る。
身の毛もよだつ善意が、宇宙ロケットから胎児まで、
あらゆるものにエネルギーを配給する空間血脈の中を循環していると彼女は考えている。
落ち着きがなく座る間もないヘドバンのストリームだ。
それからすると、
ブラックトルマリンのエネルギー周波は、
パンクを離れグランジに寄っている。
けれど、ブラックトルマリンの結晶化を推進させてるエネルギーが、
決して彼女を特別扱いしてるわけではない。
それとは遠縁にあたる、やや家風の異なるエネルギーなのだ。
もうずいぶん前に一度、意識を持つ結晶体となって間もない頃。
その特性を見込まれちょっとした職務を宇宙法則から与えられて、真ん中から数えて2番目の星に出張した。
その星はとてつもなく古くて、地表はとうの昔に金属ばかりの住居が超密集した状態のカプセルホテルと化していて、気温は脱水症状をわずかに超える程度になっていた。
ブラックトルマリンは、その職務が何だったかよく思い出せないが。
うかつな都市計画のせいで、ぎゅうぎゅう詰めになったその星を決して忘れることができない。
「この成り行きも、宇宙の法則なのです。
別の言い方をすれば、それは水です」
その星の支配者はそう言い、続けた。
「すべてのものは時空からは逃れられません。
魚は泳いでる水からは逃れられない。
すべては法則という水流に、頭の上まで水没してるのです」
終わらない工事現場の騒音に似た支配者のその言葉も、縦ノリでブラックトルマリンの心へと水没していった。
「私とて、誰よりも親しくしてるだけで、
法則との一線は断じて超えてません!
だって、その線とは地平線なのですから超えたくても超えようがないのです・・・」
宇宙の法則とは、日常こそを横切り循環しているが。
その完成度は、まだ正直うかつだ。
午後2時にして小腹がすくのも宇宙の法則。
ビービー鳴ってる目覚まし時計を眠ったまま止めちゃうのも、宇宙の法則。
カフェオレ頼んだのに、ウエイトレスさんがコーヒーゼリー持ってくるのも宇宙の法則。
もしかしてこっちの発音が悪かったのかな?ならまあいっか嫌いじゃないしと宇宙を受け入れ、ゼリー食べ始めたら、すぐ隣のテーブルの客がカフェオレなど頼んでない早くゼリーを持ってこいって不慣れな顔つきのウエイトレスさんにクレームつけてるのも宇宙の法則。こっちの伝票みたら、ちゃんとカフェオレって書いてあってメニュー確かめたらゼリーの方が150円高いっていう宇宙の法則。うかつな善意で受け入れてしまったらレジでややこしくなる系タイプの宇宙の法則。
高度な知性体をコントロールする宇宙の法則ほど、まだまだかなりにうかつなのだ。
初子を育て始めた親くらいオロオロしている。
へし折れたところほど、倍返しで新芽が成長する・・・上手くゆけば、だが。
ブラックトルマリンは職務として。
その上手くゆく相場みたいなものを、
対象に仕込まれてるうかつな善意パーツの部品交換かなんかで、
なんとかしようとしていた。
(おわり)