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Stones alive complex (Baltic Amber)


脳内会議室の中央には、円卓の会議用テーブルが置かれている。
その周囲にずらりと並べられた3脚の椅子の列に沿って、アンバーの楽観性人格は進んだ。

ひとつの椅子を選び、席につく。
テーブルの周囲に、むんむんとした楽観的な熱波がたちこもる。

アンバーの悲観性人格の方は、アンバーの楽観性人格とは反対周りに椅子の列に沿って進んだ。
その足跡からは音もなく冷気が走り、悲観的に氷結した水蒸気が舞った。

会議室で目立つ光を発しているのは、会議用テーブルの真ん中に置かれた大きめのティーポットで、模様のないセラミック越しに見えるのは、その中で竜巻となり沸騰しているお湯、それはニューロンのスパークとなっていた。

アンバーの悲観性人格は残った2脚の片方を選んで、席についた。

別のひとつの人影が、ふたりの前方に近づいてきて、くっきりと浮かび上がった。
背の高いシルエットだ。
その琥珀色した影に向かって、ふたりは同じタイミングで会釈した。
横目でアンバーの楽観性人格は、テーブルをはさんだ向こうにいる悲観性人格へ無言の口パクをする。

(今回は、こっちが多めになるはずよ!)

と。
さらに、

(こっちには前回、現物を目の前にしながらみすみす見送らされた貸しがあるんですからね!)

そう自信たっぷりな顔を向けられたアンバーの悲観性人格の口元に力が入った。

言われなくても分かってるわよ・・・
前回みたいな悲観的なラッキーが何度も続くはずがないって・・・
だけどね・・・
アナタの意見ばっかりが採用されてたら、
この世はなんでもありの享楽状態になっちゃうんだからね・・・
抑えとしてのワタシも必要なのよ!

目を伏せたアンバーの悲観性人格は、肩幅をすぼめ、うつむいた。
アンバーの楽観性人格の方は、肩幅を拡げて背もたれに反り返っている。
脳内会議中は、いつもそうしてるように。

そんなふたりのあいだの席に腰をおろしたのは、
アンバーの統合性人格だった。

アンバーの統合性人格は、軽く咳払いすると。
胸ポケットから封筒を出し、
中の紙を取り出して読み上げる。

「では、発表します。
『今月の頑張った自分への御褒美に!
こないだ見つけたコートを買ってもいいか?』
案件につきましては、
悲観性3割、楽観性7割の配分で進めることとします」

アンバーの統合性人格は、アンバーの楽観性人格とアンバーの悲観性人格へ、厳格な眼差しを交互に向けて、同意を求めた。
仮に不本意であったとしてもアンバーの統合性人格の決定に逆らう権限は、ふたりには与えられていないのだが、これは形式上の儀礼なのであった。

ふたりは、
「ほらね!」と「だよね・・・」のオーラを放ちつつ、同意の意で無言を返した。

それから。

アンバーの楽観性人格は、
『大丈夫、大丈夫!先々の入り用は、なんとかなるって!楽勝楽勝茶葉』を指定されたとおりの量を、ティーポットのフタを開けて入れた。

続いてアンバーの悲観性人格が、
『無理無理無理!ちゃんと将来に備えとかなくちゃ心配だわ茶葉』を、指示されたとおりの量を、ティーポットへ入れて、フタを閉めた。

アンバーの統合性人格は、そのふたりの様子を見届けた後。
ますますスパークをほとばしらせるティーポットを揺すって蒸らし、そこから少量の茶をカップへ注いだ。

ひと口、こくりと味見する。

「う~ん!美味しい!
絶妙なブレンドの甘い安心と苦味の不安!
とても良い出来ですね」

満足するとティーポットを持って立ち上がった。

「じゃあ、ワタシはこれから前頭葉までこの意思決定ホルモン茶を運びます。
とりあえず、再びあのショップまで足を運ぶことになるでしょう。
この案件の最終の最終の最終結論は、
現物のある現地で再度見定め決着することになります。
ふたりとも、ご苦労さまでした。
では、解散!」

バラバラと席を立ち、
静かにいずこかへ立ち去ってゆく。

が。

アンバーの悲観性人格は、
ひとり席に残り。

「これはまだ最終決定じゃない・・・
最終決定じゃないのよ・・・」

そんな苦手な楽観で己を励ましていた。

(おわり)

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