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命日

今日、ある人が亡くなった。

昨日まで、まさか亡くなるとは思わなかった。
今朝、具合が悪くなっていて驚いた。
ICU(集中治療室)へ運ばれ、
なんとか助かってほしいと願い、きっと、助かると思った。
午後、亡くなったことを知った。

数日前まで、普通に話をしていた。
「結婚してるの?」
最近、返事をするのに間を持つようになっていた質問が、
この人からは、嫌じゃなかった。
「いいえ、してません」
「○×△なのに・・」
「え?」
「いい人なのにって」
「そんなこと言ってくれるの、○○さんだけですよ」
そんな会話をしていた。
お世辞だとわかっていても、すこし、うれしくなる自分がいる。
やさしい人だと思った。

「ありがとう」
くしゃっと目尻が垂れた笑顔が、素敵だった。
「こちらこそです。ありがとうございます」
こちらも自然と笑顔になる。こんなやりとりを、何度もしていた。
たとえ自分がつらくても、なにかとお礼を言ってくれる。
関わると、気持ちが明るくなる。
笑顔のかわいらしい人だった。

身の上話をしたりして、打ち解けた気持ちでいた。
数日後、具合が悪くなっていた。
ある程度予想されることだったので、仕方ないと思った。
この時を越せば、時間はかかれど、よくなると思っていた。

翌朝、ICU(集中治療室)へ運ばれ、
そのまま、治療の甲斐なく亡くなった。

あっけない。
ついこの前まで、話せていたのに。
ついこの前まで、笑顔をみせていたのに。

あぁ、今日がこの人の命日なのだと思った。
真夏日の暑さが、青空がまぶしい今日、
窓を開けるとむし暑い風がカーテンをゆらす今日、
蝉の声に、夏の始まりを感じる今日、
この人の命日となった。

私にとって、なんてことのない一日だ。
帰ってカレーうどんを食べる。
生きている私。
今はもう生きていない、あの人。

人って、いつ死ぬかわからないものだと思った。
あの人だけじゃない、私だって、いつ死ぬかわからない。
明日かもしれない。いや、今日だってあり得る。
思いがけないところで、あっけなく死ぬ。
誰にだって死はやってくる。

今生きていること。
家で観たかった映画を観る。
買い物に出るのが面倒で、昨日観た映画のカレーうどんがおいしそうだったから、家にあったカップカレーうどんを食べる。
扇風機の前で、ほぼ下着同然の姿で、片膝立てて、うどんをすする。
素晴らしい生き方はしていない。
素晴らしい人でもない。
いい人だって、あっけなく死ぬ。

そんな、当たり前のことが、身にしみた日だった。
手を合わせて、冥福を祈る。
6月28日。今日は、あの人の命日。



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