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はじめての一人旅 -la finale épisode

ほぼ美術館メインに過ごした旅だが、勿論ショッピングも楽しみにしていた。

当時流行っていた某ブランドのヒールローファーが欲しくて、レアール(渋谷とか原宿明治通り辺りのイメージか…)近くのブティックに突撃した。(こちらを試したいのですが)と(私のサイズは〇〇)と(こちらをください)で何とかなると思ったが、店員さんが別の色と形を勧めてきたのをなかなか理解出来ず、ため息つかれたのがちょっと悲しかった。
店員のお姉さんに(アナタはフランス語話す。でも少ししか話せないのね…)と言われ、まだまだ精進が足りないのだな、とホテルのベッドの上で戦利品を広げながら昼間のやりとりを思い返し、日本に帰ってからも勉強を続けようと切に思う自分であった…

小柄で髪をポニーテールにしてダッフルコートを着た私は、随分とお嬢ちゃんに見えたようで、道を尋ねると皆さん親切に対応してくれた。

ピカソ美術館のメトロ最寄駅出口付近で方向を聞いた地元のお爺ちゃんは、大丈夫だと言うのに結局美術館入口まで引率して頂くことに…。

分かります、大丈夫です!と言ってるのに(いいんだよ!私は退職して時間がたっぷりあるんだよ、ほら今日は空も青いし散歩するには最高じゃないか!Hôtel Salé(=塩の館、ピカソ美術館)は素晴らしいところだね!)などと、シックで雰囲気のある美術館を堪能するはずが、陽気なお爺ちゃんも同行する勢いだったので、何度もペコペコお礼を言って慌てて館内に入るのであった…。

この旅の二年後のメトロ内でも、服装はキチンとしているが、異臭を放ってる年配のムッシュー(ルンペンだったかも?)にいきなり日本人か?私はクロサワファンだと熱く語られ、乗り換え駅で降りたら話しながら付いて来て、別の路線車内までもずっと追って来たので、マドレーヌ辺りで降りて猛ダッシュで近くのブティックに駆け込むというちょっと恐怖な出来事もあったのも思い出した。

そうこう言う間に旅行も最終日。
午前中に確かロダン美術館。
それからOpera座界隈に移動して、免税店でお土産と日本では敷居の高いコスメなどを買った後、慌ててホテルに舞い戻る。
初日と同様、空港までのバスに乗ることになっていた。

到着日と同じく添乗員のお姉さんが出発前に点呼を取る。私の顔を見た彼女はホッとしたような顔で声をかけてきた。
「元気になって良かった。楽しかったですか?」
「ハイ。おかげ様で楽しかったです」

初日のちょっと近寄り難い表情と打って変わって、満面の笑みで「良かったー!」と言ってくれた。

こちらで働くのは大変だって言ってたけど、
きっとこうやって旅を楽しんだツアー客を見送る事が彼女にとっては何よりのモチベーションで喜びだったんだろうな、と書き起こしながら感じ入る…。

帰りのバスはまだ明るい時間帯だったので、空港まで高速道路付近の景色がよく見えた。
途中で大きなスタジアム、競技場が見えてきた。添乗員さんが教えてくれる。

「あれ、ワールドカップ競技場ですよ。今年フランスでワールドカップ⚽️がありますよね」

(その年のワールドカップでジダン率いるフランスチームは、そのスタジアムで母国に記念的な初優勝をもたらす事になるのであった…)

旅の終盤でリラックスしたツアーの人たちは、うーん、日本(チーム)はどうなるかな〜?と離れて行く決勝戦会場となるスタジアムを見送りながら笑い合った。

機内の隣席は同じツアー参加の日本人マダムだった。手前に座ってる友達だったか家族と参加したとのことで、私が一人で参加していたと知ると驚いた。

怖くなかった?と聞かれ、怖かったけど何とかなりましたー!と笑いながら雑談してる内に、シャルル・ド・ゴール空港から飛行機は離陸した。

窓から小さくなるフランスの大地を眺めてる内に、目標を設定した一年と少し前のこと、そしてそれからの慌ただしい日々のことが順を追って思い出された。
そもそも何故一人旅、何故フランス語をムキになって勉強したのか…。

父から、そして自らもダメ出しし続けた20代にけりをつけたくて、30歳のスタート地点にこの旅を設定したのだ。

日仏学院通学の日々も、仏検も、ゴールの旅も今無事に終わろうとしてる。

胸に熱い何かがこみ上げてきて、気付いたら雲を見ながら涙をダラダラ流していた。(結構な号泣加減だったと思う…💧)

隣のおば様はびっくりして大丈夫?と声をかけてくれたが、私がうなづくとそっとしておいてくださった。(ひとり旅、きっと心細かったのね…)と思ったことだろう。

おかげ様であの一年間ガムシャラに頑張ったことで、ささやかながら自分を信頼することを覚え、ずっと跳べなかった自己肯定感という小さなハードルを跳ぶことが出来た。

あれから随分年月も流れ、嬉しいことも辛いことも沢山押しかけてきたけれど、頑張りやさんだったあの頃の自分がいつもどこからか私を見守ってくれているような気がするのです… :-)

merci à tous! et pour moi même.
ありがとう、皆さん、そして自分自身にも。

fin ;-)


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