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さよならモンペリエ

酷い二日酔いで起き上がれなかったその日は3回目の遠足だった。
カルカッソンヌの要塞を観に行くことになっていたが、こんな状態で長距離バスは無理だな…と初めて学校をサボった。

パスカルが「mitsuyo、学校に行かないのか?」と事務的に起こしに来たが、今日は授業じゃないし頭が痛いから行かないと言うと、
「…C'est pas bien」良くないね、と頭を振って部屋から出て行った。


その日の午後だったか次の日だったか…

パスカルはPCを持っていない私に、ネットを使いたい時はオフィス部屋のPCを使っていいよと言っていた(とはいえ日本のサイトは残念ながら文字化けで見れなかったのだが…)

クリストフと外出してくるよ、とパスカル達が出かけて行ったので、暇を持て余した私は寝ぼけ頭でeMacの前に座る。

enterでスリープを解除した瞬間、メーラーが立ち上がったのかパスカルが開きっぱなしだったのかはわからないが、メールボックスが画面いっぱいに開いた。

ギクっとしながら閉じようとするとピノさんのアドレスが上方に数件並んでいる。

ひとのメールを見るなんて言語道断だが、私がここに居る事を知っているピノさんとのやりとりがどうしても気になり、動揺しつつも直近のメールをclickしてしまった…


目に飛び込んで来たピノさんの言葉にどっと冷や汗が出る。


「パスカルよく聞け、mitsuyoはおまえと結婚したいんだ」
(…ああピノさん、余計なことを…) 

パスカルはそれには何も答えていなかった。

その他、何通も、何通も、ペール・ラシェーズをもじったメール・ラシェーズというアドレスからのメールが並んでいた(Père は父、神父さま、 mèreは母)=つまりはパスカルママからの怒涛のmailだった。

なんだか胸騒ぎがしてママン・フランソワーズからの最新のメッセージも開けてしまった…

そこには…

「ecoute,Mon nounours , いいこと、私のクマちゃん! あのジャポネーズに触れてはダメよ!」

…えっ、あのジャポネーズって…ワタシ…か?

返信の部分を開けると、パスカルが答えていた。
「Oh,maman. Je ne la touche jamais!」

(ママン、決して彼女には手を出さないよ!)

…え、何ですって?...決して手出ししない?…


フレーズを何度も読み返し(おかげで記憶してしまった)すっかり酔いは覚めたが胸がムカムカし始めた。

...出来ればその場でサラリと、

"フランソワーズさん。
貴方の息子さんは嘘つきです。
誠に残念ですが、既に彼はその日本オンナにお手付け済みでございます"

…とでも書いてやれば良かった。

だけど、その時の私はナイーブで幼過ぎた。
半年前にパリで出会った王子さまの為に、小心者の私がかなりの覚悟と勇気を振り絞り、彼の住む南仏まではるばるやって来た。
その勇気の代償として得られる何かが有ると思い込んでいた。


持ち堪えていた心がポキン、と折れた。


もうこれ以上モンペリエに居たくなかった。

学校もあと数日だったが、混乱して外の電話boxからパリのMヨシさんに電話をした。
偶然ピノさんも側に居たらしく、途中でピノさんに代わられた。

何をどう訴えたのか、最早詳細は覚えていないが、パスカルとは上手くいかなかった、明日にでもここから出発したいと泣きながら訴えたような気がする…(いい大人が恥ずかしい)

ピノさんは、「ダメだ!学校だけはちゃんと終わらせろ!この滞在を無駄にするな!」

「いいかmitsuyo、約束だ!ちゃんと全部終わらせてからパリに来い!分かったか?」

「…D'accord…ハイ…分かりました…」

金曜日まで授業があるので、土曜日のお昼頃には発とう…
日本帰国前にキャロルにも再会したかったので、週末にはパリに行くことを彼女に電話した(泣いた事を悟られないようにして…)

電話を喜んでくれた彼女は(じゃあ、今週末はうちに泊まって!)と申し出てくれ、有難さで胸がいっぱいになった。

しかし、去り際も一筋縄では行かず、何年も何年も私の中で悪夢の夏として記憶されることとなる…。

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