l'été 2000 表参道
その年、私は表参道の時計店でショップスタッフをしていた。
30歳でフランス一人旅を敢行し、暗黒の20代をどうにか無事終了した私は、小さな商社でフランス時計販売をした流れから(下らないセクハラで一年持たずに辞めた...貧血起こして駅で倒れた際に「30にもなって結婚してない女性の生理がどうとか知らないよ」などと、今なら有り得ない発言をされたのだ…)翌年、割と知られる時計ブランドのギャラリー&ショップスタッフとして雇って貰った。
そのブランド自体がスポーツ、ファッション、映画などのスポンサーをしていた為、店内で様々なイベントもあり、また某ラグジュアリーグループ傘下に組み込まれた年だったので、錚々たるブランド関係者が入れ替わり立ち替わり時計の品定めにやって来たので対応に緊張したのを覚えている。(でもフランスの人が来ると少し会話が出来て嬉しかった…)
正面玄関の左手にギャラリースペースがあり、表参道と言う場所柄、英語の話せるお姉さんが一人受付として常駐しており、休憩の時は私が代わりに店番をした。
ギャラリーでフランス在住の日本人画家Mさんの個展が1週間催された。
フランスオタクだった私は、お昼休みも合わせ、用事を見つけてはちょいちょいとギャラリーサイドを覗きに行った。
私より少し歳上なだけなのに、パリでアーティストとして生活しているMさん。作風もアバンギャルドな抽象画でカッコ良かった。
私がしつこくフランスの話を聞きに行っていたので「じゃあ、パリに旅行に来ることがあったら連絡してください。ガイドブックに載ってないパリを教えますから」と連絡先をくれた。
…何となくドラマな出会いのように聴こえるが、全くそんな雰囲気では無く、Mさんは聞かれたこと以外は全然話さないし、こちらがミーハーなフランス被れとして見られているのは充分自覚していた。
それでも大好きなパリの住人と繋がりが持てたことが嬉しくて、貰ったアドレスと電話番号を大事に大事に手帳のポケットにしまい込んだ。
そして半年後。繁忙期も過ぎた1月、まとまった休みが取れることとなった私は安いエアチケットとパリ市内のホテルを抑えると、満を持してMさんのアドレスを取り出した。
海外へのメール等まだ慣れて無かったので(時代です...)勇気を出して深夜に国際電話をかけた。
(そういう事もやってみたかった 笑)
呼出音のあと、日本語で呼びかけるとMさんが出た。
「ああーハイハイ、あの時の!」
半年前のギャラリーの小娘を覚えていてくれて、「着いたら電話してください。ごはんでも食べましょう」と言ってくれた。
ウキウキして電話を切る。
パリの知人と現地で待ち合わせてごはんの約束。退屈な毎日から離れてのパリの旅。この時はその夏にまた渡仏することになるとは思ってもいなかった...