更に和紅茶の事を知りたい人向けに
◇紅茶が日本で作れる理由とは
気候条件を満たしているから
お茶(ここから生物としてのチャという名前で呼びます)の新芽を摘み取った後にそのまま放置しておくと、徐々に色が赤く変わっていきますが、これはチャの芽に含まれている酵素の働きです。お茶という嗜好品は、チャの新芽が本来持っているこの酵素を、傷を付けたり揉みこんだりする事で上手に働かせる、あるいは酵素の働きを止める事で作られています。チャの酵素を上手く働かせるには「日中の温度差があり、かつ高温多湿な環境」が必要で、日本はこの条件を満たしている為、紅茶を作る事が出来ます
気候だけで良い物は出来ない
ただし、ダージリン、アッサム、スリランカといった世界的に有名な産地で作られている高品質な紅茶を日本で和紅茶として生産するには、栽培方法や品種を厳選したり、機械を改良するなど、理想的な状態を人工的に整えてあげる必要があります。その為、昔から日本で緑茶を作っていた生産者が、緑茶が売れないから作ってみたという、安易な理由と勢いだけで商品として売り物になるレベルを作れるほど和紅茶の製造は容易な物ではありません
実は烏龍茶の方が向いてる説
お茶の種類は酵素の働き方によって変わります。緑茶は蒸気で蒸したり、釜で炒る事で酵素の機能を止め、チャの新芽の緑色やその風味を残した嗜好品です。紅茶は逆に酵素の働きを強く促す事で、葉に含まれるカテキンをテアフラビンという物質に変えて、黄〜オレンジの水色や、さっぱりした苦味を作る嗜好品です。酵素の働きを紅茶ほど激しくせず、緑茶のように全く止める事もない中間程度の働きにコントロールして作るのが烏龍茶であり、緑茶や紅茶よりも作るのが難しいとされています。よって、産業として成り立つほど烏龍茶を大量に生産している地域は、中国や台湾など一部の東アジア地域に限られています。ですが中国や台湾以外では烏龍茶が作れないという事ではありません。自然環境や気候の観点で言えば、日本は紅茶よりもむしろ烏龍茶を作るのに適した土地柄だと言えます
◇良い和紅茶を作る為には
品種を選ぶ
やぶきた品種は紅茶に向かないという話を先程述べましたが、これはチャの芽に含まれている酵素とカテキンの量が関係しています。べにふうきのように紅茶に向いている品種は、酵素の働き方が強く、カテキンの量が十分に含まれているという条件を満たしています。簡単に言うと苦味や渋みが非常にきつく、真っ赤なお茶ができやすい品種が紅茶向きの品種です。
香りと味はトレードオフの関係である
チャの木の育て方も紅茶の品質に大きく影響します。日本では肥料を多くしたり、人工的に日差しを遮る事で、旨味や甘味に富んだ緑茶を作る為の栽培技術が確立されていますが、この栽培方法で育ったチャの芽で紅茶を作ると酸っぱい、あるいは雑味の多い、香りのよくない紅茶が出来るとされています。ただし、全く肥料を与えない育て方だと香りは良いが、味の薄い紅茶が出来るので、和紅茶を作る場合は、ある程度は肥料を与えるべきだという見解もあります。
補足:ミルクティーと紅茶
海外ではミルクティ―という紅茶の飲み方が主流ですが、これは現地の水質に関係しています。紅茶は英語でBlack teaですが、イギリス等の欧米圏は水質が硬水よりで、硬水で紅茶を淹れると水色が黒く濁り味が出にくいという現象が起こります。これを改善する目的で牛乳と砂糖を足す事がミルクティーを主流とした紅茶文化の発展に繋がりました。一方、軟水で紅茶を淹れると、水色はオレンジ色で味が出やすくなるので、日本では美味しく飲めたのに海外では不味くなってしまった和紅茶・・・という事も有りますので、もし、海外の方に和紅茶を薦める機会がありましたら、現地の水質がどちらなのかを聞いてから和紅茶の種類を選ぶと、何処の国でも美味しく飲めると思います
◇紅茶の香りについて
「人間の味覚の8割は香り、2割が味」
食品の品質において香りは非常に重要な要素です。紅茶の香りの中心となるのは、チャの芽が何らかのダメージを負った際に生じる香りで、レモンやバラなどにも豊富に含まれている花の香りです。自然界では害虫の攻撃を防ぐ役割を担っています。チャの芽を摘み取って放置するだけでも香りが出てきますが、より紅茶らしい香りを作る為には、水分を飛ばして葉を萎れさせたり、揉みこんだり、高温で乾燥させる事で、青臭い香りを飛ばしたり、花の香りを強く出すなどの手を加える必要が有ります。特に青臭い香りを飛ばす為の乾燥の工程が紅茶作りでは重要で、花の香りを留めつつ、焦がさないように火力を調整できるかどうかが紅茶の品質に大きく影響します。
紅茶名人は火の扱いが上手い
青臭い香りが強く残ってしまうと、緑茶っぽい紅茶もどきが出来てしまいます。しかし、適度に残った青臭い香りは「グリーニッシュ」と形容される高級な紅茶の特徴でもありますので、良い紅茶が作れるかどうかは、まさに火の匙加減1つ。紅茶職人の腕の見せ所であると言えます
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