和紅茶とは?新しい日本の嗜好品について
◇和紅茶とは
和紅茶とは日本の品種を使って、日本で作られている紅茶を指します。緑茶、烏龍茶、紅茶は作り方が違うだけで同じ原料を使って作っているので、どの国のお茶の品種でも緑茶、烏龍茶、紅茶を作ることが出来るのがお茶作りの魅力ですね。
明治時代に始まった歴史
明治時代に政府の政策として、紅茶作りが行われました。1877年(明治10年)には既に約3トンの紅茶が輸出されていたとの記録があります。この時活躍したのは、多田元吉という明治政府の役人を務めていた人で、明治8年から10年にかけて中国、インドのダージリン、アッサムなどを巡り、紅茶製造の技術を学び、日本に持ち帰り全国に広めました。茶の種、紅茶製造方法、病虫害に対する研究、栽培方法、品種改良、近代茶業につながった機械の図面持込み、有機農法の持込み、製造技術等多岐にわたる紅茶製造の技術を日本にもたらし、和紅茶業界に大きな貢献を果たした人物です。
多田元吉らを中心とした和紅茶生産運動によって、インドのアッサム、ダージリンなどの紅茶産地からお茶の種子を持ち帰り、日本のお茶品種と掛け合わせた新しい品種を作るなどの開発が進み、、1881年(明治14年)に初めてインド式製法で本格的紅茶の生産をスタートさせるなど、彼らの努力は新宿御苑の試験場や各地に設立された技術伝習所等の記録から見てとれます。
一度は衰退し、復活を遂げた和紅茶
しかし、海外から安い紅茶が輸入されるようになると和紅茶の生産規模は徐々に縮小し、第二次世界大戦後の1971年の紅茶輸入自由化以降はほぼ壊滅状態となり、培われた多くの製造技術の伝達が途絶えています。しかし、平成に入ってから鹿児島県や静岡県などの茶産地を中心にした復興運動が進められ、現在は、2021年の時点では、生産量約375トンに達しており、「地紅茶」という形で日本各地で生産が行われるまでに復活を遂げています。
これには近年の茶価低迷、需要離れに伴う日本茶産業の衰退が関係しており、緑茶だけでは産業が成り立たなくなってきた為、起死回生をかけて、和紅茶の生産に取り組む生産者が増えてきた事や、安定した日本の紅茶需要も和紅茶生産の飛躍に拍車をかけております。ですが、生産量だけでは緑茶の生産量の0.5%程度(2021年の緑茶生産量70,700トン)に留まっており、国内での和紅茶の知名度はまだまだ高くないと言えます
海外からの注目を集めている
2022年 熊本のお茶のカジハラ、岩永製茶園等の生産者が手がけた和紅茶がイギリスのTHE LEAFIES 2022 - INTERNATIONAL TEA ACADEMY AWARDSで最高の賞を獲得するなど、和紅茶は順調にその知名度を伸ばしています。日本人の味覚に特化して独自の進化を遂げた日本の緑茶よりも、海外の人達の好みに近い和紅茶の風味が高評価を得られやすい事もあり、生産者は訪日外国人向けの和紅茶の商品作りや提案の仕方を模索している状況です
◇和紅茶の魅力とは
渋過ぎない柔らかい味が魅力の1つ
和紅茶の特徴として、牛乳無しのストレートでも美味しく飲める、穏やかな味と高い香りを持つ事が挙げられます。
一方で、海外での紅茶の飲み方はミルクティー(イギリスではティーウィズミルクと呼ぶ)が主流です。海外で紅茶の審査をする際にも、牛乳と砂糖が用意されていて、それらを紅茶に足した際の風味の変化も重要な審査項目となります。大半の和紅茶は、何も加えないストレートの飲み方で楽しむ事を前提にしている為、海外の紅茶に慣れた人達にとって、牛乳と砂糖を加えた和紅茶は物足りないと感じる可能性も有ります。ですが、一部の和紅茶は海外の紅茶にも引けを取らない強い風味を備えた物もあり、多様な和紅茶の楽しみ方を実現しています。
およそ3種類に分かれる和紅茶の味
和紅茶専門店の先駆け的存在である「くれは」の岡本 啓氏の提唱する和紅茶の分類が参考になると思います
「①滋納(じな)緑茶品種(やぶきた、さやまかおりなど)を使用 渋みが少なく落ち着いた甘い香りで日本人好みの味」
「②清廉(せいれん)ダージリンやウーロン茶などをヒントに作られた紅茶 さわやかな香りで発酵が浅い ストレートがおすすめ」
「③望蘭(ぼうらん)インドのアッサムティー、スリランカのセイロンティーなどを目指して作られた紅茶 程よい渋みがあり色が鮮やか海外産の紅茶に近くミルクティーにも向いている」 (紅葉(くれは)岡本啓さん著書「和紅茶の本」より)
和紅茶に物足りなさを感じる人向けに
ダージリンやアッサム、スリランカなどの海外の紅茶に近い雰囲気を持つ和紅茶が飲みたい人には「望蘭」に該当する和紅茶がおススメです。特に筆者のお気に入りは静岡県の丸子にある丸子紅茶です。ミルクと砂糖を入れた時に、真価を発揮するこの紅茶は、生産者村松二六氏の通称二六マジックと呼ばれる高度な職人芸によって作られていますので、紅茶が好きな人は一生買うに値する価値があると筆者は確信しています
◇これだけ知っておけば損しない和紅茶の選び方
べにふうきという品種の和紅茶から始めてみる
初めて和紅茶を試すという人は、べにふうき(紅富貴)という品種を使った和紅茶が一番向いていると思います。べにふうきは1993年に品種登録を受けたアッサム、ダージリンといった海外の茶品種と日本の茶品種をかけ合わせたハイブリッド品種です。和紅茶の復興運動の中心を担った品種で、外国の紅茶に慣れている人でもすっと馴染める力強い風味を持っています。
一時期花粉症に効くという理由で、べにふうきの緑茶が出回った事が有りますが、元々べにふうきは紅茶用に開発された品種で、緑茶としては苦味が強すぎる為、食品というよりは医薬品として飲むことを推奨します。また、花粉症に効果があるとされるのは緑茶のみで、紅茶にすると効果が薄い事がわかっています
やぶきた紅茶をおススメしにくい理由
日本でお茶と言えば「やぶきたの緑茶」ですが、やぶきたは紅茶を製造する際に必要な酵素の働きが悪いため、美味しく品質の安定した紅茶を作る事が非常に難しい品種とされています。逆に酵素の働きが悪いからこそ、最高の緑茶を作る事が出来る点が魅力であり、やぶきたが「日本茶の帝王」といわれる理由です
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