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いちごベビー

 彼女はいちごが大好きでした。
 彼女はいちごを愛していました。
 彼女の心はいちご愛でいっぱいです。
 彼女にとってそのすべてがいちごなのです。

 彼女はいちご畑でいちごを栽培しています。
 毎日毎日、いちごを育てています。
 おいしい苺。
 おいしい男。

 そう、彼女は苺男を育てています。
 彼女にとっての理想の男、それは苺男なのです。
 苺男はいちご畑で育ちます。
 苺の顔をした苺男。
 彼女はその顔を食べてしまいます。
 顔を食べられて顔のなくなった苺男の体は、いちご畑に埋められます。
 苺男はいちご畑で育ちます。

 成長した苺男の顔は、いちごです。
 いちごの顔をした苺男は地面からむっくりと起き上がり、彼女の前に立ちます。
 彼女はできあがった苺男を食べます。
 まずは体を楽しみます。
 そして最後に苺の顔を食べます。

 顔を食べ終わった苺男は、また苺畑に埋めます。
 しばらくするとまた、苺の頭が成長し、また苺男になるのです。

 彼女は幸せでした。
 なにしろ生活のすべてがいちごなのですから。

 彼女はいちごとのしあわせな生活を続けていました。
 けれどもある日、彼女は体の異変に気づくのでした。
 おなかがぽっこりと膨らんできたのです。
 いちごの食べ過ぎかなあ、と最初は思っていましたが、おなかはどんどんと大きくなりました。
 そう言えば最近生理がありません。

 赤ちゃんができた?
 でも心当たりがありません。
 だって彼女は人間の男とはずっとセックスをしていないのですから。
 セックスをする相手といったら、苺男だけだったのです。

 え?
 苺男の子供を宿した?
 そんなことがあるのでしょうか?
 でも苺男は確かに射精して、苺男の精液は彼女の体内に放出されていたのです。
 でもまさか妊娠するだなんて。

 いちごの赤ちゃんは、おなかの中ですくすくと育ちました。
 その成長はとても速いものでした。
 彼女はおなかをさすります。
 おなかの中で、赤ちゃんは動いていました。
 生きている、生きている、いちごの赤ちゃんが生きている。

 彼女はいちごの赤ちゃんのために音楽を聴きました。
 「ストロベリーフィールズ・フォーエバー」
 ビートルズの曲です。


 ああ、なんて幸せなのでしょう。
 私の体の中に新しい命が宿っているのです。
 そしてそれはものすごく早いスピードで育っています。

 10日と10時間で、彼女は出産を迎えました。
 初めての出産です。
 うーん、うーんと踏ん張ります。

 ぽん、といちごの赤ちゃんは生まれました。
 生まれた赤ちゃんは、そのまんま苺でした。
 大きな苺。
 それに目と鼻と口と耳がありました。
 それはいちご男の頭だけ、のようでした。

 いちごベビーはおぎゃあおぎゃあと泣きます。
 彼女はいちごベビーにおっぱいをあげてみることにしました。
 はたしておっぱいは出るのだろうか、と不安に思います。

 彼女はおっぱいをぽろんと出して、いちごベビーに与えてみました。
 いちごベビーは彼女のおっぱいに吸い付き、おっぱいを飲みました。
 ちゅぱちゅぱ、ごくんごくん。
 あ、おっぱい出るんだ、と彼女は驚きました。
 彼女はそんないちごベビーをかわいいなと思いました。

 しかしおいしそうにおっぱいを飲むものだなあ、と彼女は感心します。
 でもおっぱいっておいしくないんだよなあ、と思います。
 でもいちごベビーがあまりにもおいしそうにおっぱいを飲むものだから、彼女は試しに自分のおっぱいを舐めてみました。

 するとどうでしょう?
 甘い、甘い。
 甘いんです!
 それは練乳のように甘い味でした。
 こんな練乳を飲んだいちごベビーはまるでいちごミルクね、と思います。
 ふふ、いちごミルク、いちごミルク。
 そんなことを思いながらいちごベビーを見ていると、かわいくて、かわいくて、食べてしまいたい、と彼女は思いました。
 ああ、おいしそうないちごミルク。

 彼女はそれを食べたてみたいという衝動に勝てませんでした。
 だっていちごを食べるのが何よりも彼女の楽しみだからです。
 彼女はいちごベビーをかじりました。
 ああ、おいしい。
 やっぱりおいしい!
 たまらず彼女はいちごミルクを食べてしまったのです。

 後悔なんてありません。
 彼女はいちごが大好きです。
 いちごは食べるものです。
 そんなの、当たり前です。
 だって、おいしいんだもの!


つづく。


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