見出し画像

オリバーピープルズ

 僕は目の手術をして、その保護のためにサングラスをしなければならなくなった。
 サングラスなんて今まで使ったことが無いし、どんなものを選んだらいいのかがわからなかったので、僕は友人の友也に相談をした。
 友也は渋谷で古着屋をやっていて、ファッションには詳しい。

「それだったら、オリバーピープルズのサングラスがいいよ」
 と友也が言った。
「オリバーピープルズ?」
 僕には聞いたことがないメーカーだった。
 まあ、僕が知っているサングラスのメーカーなんて、レイバンくらいだけれど。

「ハリウッドセレブに人気があって、ハリウッドスターが映画でかけていることが多いんだよ」
 友也はそう言って、ショーケースの中から一つのサングラスを取り出した。
「オリバーピープルズのサングラスはヴィンテージスタイルで、ブルース・ウィリスが映画「ハドソン・ホーク」でかけていたりするけど、僕のお勧めはこのOP-5。メグライアンが映画「フレンチ・キスでかけていたやつだよ」
 と言って友也はそのサングラスを僕に手渡してくれた。
 僕はそのサングラスをかけて鏡をのぞく。


「どうだ、いいだろう?」
 友也は僕の様子をうかがう。
 うん、確かにいい。
「でもこれ、高いんだろう?」
 僕は友也の様子をうかがった。
「高いよ。だけど君にプレゼントするよ。僕からのお見舞いとして」
「いや、いいよ。僕なんかがしたら、豚に真珠だよ」
「そんなことないさ。よく似合っている」
 そう言って友也は微笑んだ。

 そうして僕はオリバーピープルズのサングラスをするようになった。
 何だか僕は、ハリウッドスターになったような気分だった。
 オリバーピープルズは僕のお気に入りで、すっかり僕のトレードマークになった。


 ある日、僕は出張で大阪に行くことになった。
 オリバーピープルズをしての初めての関西進出だ。
 僕はうきうきした気持ちで新幹線に乗り込んだ。
 もうすっかりスター気分だ。
 新幹線はすいていて、僕は窓際の席でビールを飲みながら悠々と座っていた。

 しばらくすると、僕はある視線に気が付いた。
 少し前の席の女が、僕のことを見ている。
 僕は進行方向とは逆向きにシートを倒していたので、その女とは向き合う形になっていた。

 女が立ち上がって、僕の方に向かって歩いてきた。
 僕をハリウッドスターか何かと勘違いしているのだろうかと僕は思った。
 女は僕の目の前の対面になっているシートに座った。

「あなたのそのサングラス、オリバーピープルズよね?」
 とその女性は僕に話しかけた。
「そうですけど」
 と僕は答えた。
「メグ・ライアンが「フレンチ・キス」でかけていたやつ」
「そうですけど」
「あなたにそのサングラスは似合わないわ」
「え?」
 何なんだこの女は、いきなり失礼なことを言うな、と僕は思った。
「そのサングラスは、私の方が似合うと思うのよ」
 と女は続けた。
「え?」
「ちょっと貸してみてよ」
 女は僕のサングラスをとって自分でかけた。
「ね、私の方が似合うでしょう?」
「いや、確かに似合うけど、それは僕のサングラスだし、僕は目が悪いのでサングラスがないと困るんです」
 僕は困惑した。
「だったら代わりにこれをあげる」
 そう言って女はバッグからサングラスをとりだすと僕に手渡した。
 僕はそのサングラスをかけてみる。
「ほら、とっても似合っているわ」
 女はバッグからさらに手鏡を取り出して僕に向けた。
「いやいや、そんなことを言われても」

 社内のアナウンスが名古屋への到着を告げた。
「じゃあ私は名古屋で降りるから、じゃあね」
 と言って女は歩き去った。

 僕はあっけにとられてその姿を見送った。
 何なんだ、あの女は?



つづく。


ここから先は

0字

 うれしい! 楽しい! そんな甘野充の世界にぜひともご参加を!  小説が好きな人、創作を愛する人 、…

甘野クラブ

¥400 / 月

甘野クラブ Premium

¥1,000 / 月

もしも僕の小説が気に入ってくれたのなら、サポートをお願いします。 更なる創作へのエネルギーとさせていただきます。