統計検定1級合格までの体験記と対策
2022年の試験で統計検定1級に合格しました。同じように1級を目指す人のために有益な情報を残せればと思い、速報ベースの体験記を残します。
1. 合格までの受験記録
1級は科目合格制で「統計数理」「統計応用」2科目を合格することで正規合格となります。1科目合格した場合、それから9年以内に他方の科目を合格すればOK(2021年に統計数理を合格した場合2030年の試験までに統計応用を合格すれば良い)です。そのため私は1年で1科目の合格を目指しました。
2021年「統計数理」合格
2022年「統計応用(理工学)」合格
2. 自己採点
優秀な成績で合格した場合成績優秀者としての表彰がありますが、私はいずれもそうではありませんでした。自己採点からもほぼぎりぎり受かった感じです。
2021年「統計数理」
問1 [1]〇[2]〇[3]×[4]△
問2 [1]〇[2]〇[3]〇[4]△ or ×
問4 [1]〇[2]〇[3]〇[4]〇[5]×
2022年「統計応用(理工学)」
問1 [1]〇[2]〇[3]△[4]〇[5]×
問2 [1]〇[2]×[3]〇[4]〇[5]△
問4 [1]〇[2]〇[3]×[4]△[5]△
仮に得点割合が同じとすると、統計数理が7-7.5割、統計応用が6.5割前後といった感じでしょうか。合格得点率は公開されていませんが、約2/3程度の得点率と言われており、当たらずとも遠からずといったところでしょうか。
3. 数理統計知識に関するバックグラウンド
結論から申し上げると、平均的な社会人よりは数理のリテラシーがある方かなと思います。
大学院の修士までは数学専攻。
就職してから仕事で統計や機械学習を使用。
データ解析に関わる実務経験が15年程度。
2級及び準1級の受験経験はなし。
アラフォーで受験したので間違いなく20代の頃よりは計算力などは落ちており、そこが不安でした。
4. 受験勉強を始める前に前あった方が良い知識
要求される知識が多いため、人によっては2級や準1級を先に狙う方が効率的な場合もあります。ここでは独断で当方が考える1級受験勉強開始時点で持っていた方が良い知識を挙げていきます。
準1級受験程度、2級合格程度の数理統計の知識。準1級の方が実は1級より幅広く出題されるため(公式の範囲では変わらないはずなのだけど)、準1級合格程度の知識は要求していません。
大学教養程度の微積分、線形代数の計算の知識。
上記いずれかが勉強開始時点にあれば、足りない方を補うように勉強していきます。いずれも心配な場合は2級や準1級から入るのが無難です。
5. 教科書や勉強方法など
当方が実際に参考にした教科書や、実際の勉強法などを挙げていきます。なお統計応用は「理工学」選択することを前提としています。
5.1 微積分・線形代数 勉強方法
準1級との大きな違いは求められる数学力と言えます。1級では大学教養の数学力が求められます。微積分(特に積分)は確率密度関数や尤度関数の計算に必須です。
置換積分、部分積分→確率密度関数の積分など。
多項式の微分、対数の微分→尤度関数の微分など。
指数eの極限を用いた定義。
等比級数の和の公式、二項定理など。
線形代数の知識が必要となる問題は回帰分析の正規方程式を解く問題などに限られ、微積分と比較すればその必要性は低くなります。そのため後回しでもOKです。
ベクトルの和・差・内積、行列の和・差・積、逆行列の計算。
一般のn次正方行列の逆行列を求めるためにクラメルの公式まで押さえとく。
しかし過去問の解説や統計の教科書ではベクトル、行列表記で記述されている場合が多いため、やはり基本的な代数を理解していることが望ましいです。
5.2 微積分・線形代数 教科書
微積分
弱点克服 大学生の微積分 (江川 博康)
1冊でマスター 大学の微分積分 石井 俊全
いずれも実数の極限は飛ばして、微積分の計算をやります。三角関数は不要ですが、対数関数と指数関数の微分積分は必須です。
とにかく微分積の計算ができないと詰みます。
線形代数
1冊でマスター 大学の線形代数 石井俊全
世界標準MIT教科書 ストラング:線形代数イントロダクション ギルバート ストラング (著), 松崎 公紀 (翻訳), 新妻 弘 (翻訳)
とにかく、ベクトルや行列表記になれること、代数計算ができるようになることが最低限必要です。
5.3 確率・統計 勉強方法
1級は確率分布に関する出題が多いためそれに関する計算を完璧にするのを最優先とします。
有名分布の確率関数・密度関数を全て覚える。
平均及び分散の導出ができるようになる。
確率母関数、モーメント母関数の計算ができるようになる。(特性関数の出題歴は確かなかったはず)
Z=X+Yの分布関数などを畳み込みで計算できるようにする。
特にP(X≤Y)のタイプ(確率変数が2つある)の確率を逐次積分の形で計算できるように。これが苦手な人が多い。
多変量分布の変数変換をできるようにする。
その他標本分布に関する話題、t分布やχ2乗分布、F分布の定義と関係を覚える。
推定量の一致性や不偏性、および十分統計量を理解しておく。十分統計量はフィッシャーネイマンの分解定理まで。(出題歴はないが、毎年次に出題されるのではと言われている)
重要不等式、チェビシェフ、マルコフ、クラメルラオの不等式などを押さえる。
特に確率分布はその密度関数だけではなく、各分布の関係も理解しておきましょう。(例えば指数分布は、ガンマ分布の特殊な場合であるなど)。例えばこのサイトが参考になります。→http://www.math.wm.edu/~leemis/chart/UDR/UDR.html
上記は多すぎるため私は自分でわかりやすい図を作成していました。(汚くて恐縮ですが)
自分で同じように書いてみるのも勉強になると思います。とにかく1級は準1級以上に数理統計の問題が多いため、これら確率分布の理解は避けて通れません。
統計応用(理工学)では生存時間解析や分散分析が頻出です。
生存時間解析の基本、ハザード関数の定義や計算など。
分散分析は分散分析表をゼロから書けるようにする。
適合度、独立性の検定。
5.4 確率・統計 教科書
基本統計学 1級以前の知識
統計学入門 (基礎統計学Ⅰ) 東京大学教養学部統計学教室 (編集)→1級というより2級・準1級受験者にとっても必須の本。この本の内容は全て理解しておいた方が良いです。一方で記述は必ずしも初学者に優しいわけではないので、当該本の内容をインデクッスに他の本で勉強するというのも手です。
基本統計学 谷崎 久志 (著), 長谷川 光 (著), 小川 一夫 (著), 大谷 一博 (著), 豊田 利久 (著)→統計学入門より易しい。
数理統計
現代数理統計学の基礎 久保川 達也 (著)→1級の教科書と言われています。しかしやや程度の高い問題が多いため、見極めが必要です。使い方はいきなり演習問題で、問題に対応している箇所を読みながら解くと良いと思います。
弱点克服 大学生の確率・統計 藤田 岳彦→アクチュアリー対策に人気の本ですが、確率分布に関する問題が豊富で1級にも役立ちます。Chapter6までで十分です、2周しましょう。
アクチュアリーのモデリングの教科書→回帰モデルと時系列モデルに関してコンパクトにまとまっています。
その他
QC検定1級の教科書→分散分析や実験計画法の解説が詳しい。
実験計画法と分散分析 三輪 哲久 (著)→分散分析の参考書として。
確率・統計から始める エンジニアのための信頼性工学 - 身近な故障から宇宙開発まで 山本 久志 (著, 編集), 秋葉 知昭 (著), 竹ヶ原 春貴 (著), 深津 敦 (著), 古井 光明 (著)→生存時間解析の参考書として。カプランマイヤー法も詳しい。
6. 過去問の重要性
過去問は統計数理・応用ともに最重要教材です。過去問をやることで頻出トピックや傾向、及び自身の弱点を把握し効率の良い勉強ができます。また同じような問題が再度出題されることがあるため、過去問をやっていればかなり有利です。2022年応用(理工学)問4の棄却サンプリングの問題は初見では難しい問題でしたが、類題が2017年応用(理工学)で出題されており、これをやっていれば2022年の問4で6割は得点できます。過去問を買わなければならないためお金がかかりますが、できれば2012年から全てやりましょう
7. その他テクニック
問1は比較的簡単であることが多いようです。
小問は4問の年と5問の年があり、大体問[3]あたりの難易度が高いです。その次の問はそれと独立したより簡単な問題であることも多いので、わからない問題は一旦飛ばして次の問に取り掛かる方がベターです。
とにかく大問1つにつき25分以内で終わらせることを目標とします。
過程を丁寧に書いてください、計算ミスなどで最終回答が間違っても点を与えられる場合があります。(問題用紙にこの旨が言及されています)
では、ご精読いただきありがとうございました。