キャラメル・ソング
11月3日。
嵐のデビュー日。
ファンにとって大切な記念日。
わたしは嵐のファンクラブには入っていない。
意図的に入らなかったわけではない。デビュー当時、学生だったわたしは、ファンクラブという存在を知らなかったし、お金もなかった。大学生まで携帯を持っていなかったため、モバイル限定のコラムも手に入らなかった。コンサートに行けない代わりにたくさんのファンのレポートを読んだ。
なんとか自分で稼げるようになったときには、彼らはすでに、手の届かないところまで高く飛んでいたため、なんとなくそのまま、ここまで来てしまった。
だんだんと空高く舞い上がっていく5色のひかりはとても眩しかった。
それでもわたしは、わたしなりの応援のしかたでずっと嵐が大好きだった。
8時だJという番組で、二宮さんを知り、「このひとってすごいひとだ」と思ったときから、わたしのオタク人生は始まった。嵐が結成されたニュースを食い入るように見つめて、ニノさんの姿をみたときは、朝から飛び跳ねて嬉しかった。
それからわたしの人生の半分以上は、彼らが近くにいてくれた。
いまも、あたまのなかには、5人がくれた幸せや涙が色濃く残っている。
来年がきたら、彼らは、グループとして長いお休みにはいる。
21年。
嵐が誰も欠けることなく、5人で走り続けた時間。
嵐を見ていると、この奇跡の五角形を、どうしても語りたくなる。
彼らは、自分の得意なこと、苦手なことを補い合い、お互いを尊敬し合い、民主主義のもと、この絶妙なバランスを築き上げてきた。
松本潤。
嵐のエース。5人のなかで、いちばんわかりやすく、野心をみせて、言葉にして、切り開いてくれたひと。
キャラが変化したと言われたし自分たちでも言っているが、彼はずっと素直でストイックだ。ときに誤解をうけたこともあるかもしれない。でも潤くんは、「他の4人だけは味方でいてくれるから大丈夫」と、嵐の未来を優先させてくれた。妥協を許さない潤くんには、絶対的な信頼がある。彼が居なかったら、嵐はどうなっていたのかな、と、いまでもふと考えてしまう。
櫻井翔。
嵐のブレーン。与えられた仕事は断らないし、とても正確で思慮深い。顔が最高に良いのに料理は苦手で、頭が良いのに完全なツッコミではない。絶妙な苦手と得意を併せ持ち、誰からも嫌われないバランスを保てるひとだと思っている。そしてわたしは翔くんの書くラップが大好きだ。翔くんが書くリリックは、彼ならではの聡明さ、おしゃれさ、強さがある。そして彼自身が優しいから、歌詞の魅力がさらに増す。それでいなくても、翔くんの話す言葉そのものが素敵なものばかりで、感動してしまう。
相葉雅紀。
嵐のムードメーカー。ずっと、笑顔がどこまでもスーパースター。
彼が笑ってくれると、空気が目に見えて温かくなる。あまり期待できない内容のコーナーでも、彼が楽しそうにしているのをみると、こちらも思わず気持ちが乗ってくるし、いつの間にか楽しんでいる自分がいる。
突拍子もない発想力と豊かな表情が最大の魅力だが、それ以上に相葉さんは周囲の空気に敏感で、気遣いの人だ。その繊細さが、またひとを虜にする。
二宮和也。
嵐のバランサー。そして、わたしの人生初の推し。
中性的な仕草と頭の回転の速さ。周囲を自分のペースに持っていくのが上手で、空気を観察し、コントロールできる人。そんな彼のことを、周りは「人たらし」と呼んだ。
二宮さんは、ひとのことを話すのはとても得意で、色々なエピソードや言葉がでてくるのに、自分について話すのが苦手で、「自分はあまのじゃく」と表現する。その不器用さがまた、見る人を切なく、愛おしい気持ちにさせる。
当時学生だったわたしは、一目見た日からとにかくこのひとが好きだった。「ファン」と「片思い」の狭間で、自分にとって「アイドルの推し活」とは何かを考えさせてくれたひと。
とにかく、つらいとき、どうしようもならないとき、ひとりで乗り越えなければならないとき、わたしは画面越しや雑誌の彼に助けられた。
大野智。
嵐のリーダー。そして、嵐の求心力。
歌、ダンスは群を抜いて上手いし、大体のことは器用にこなし、周囲に優しい言葉を使うのに、大野くんは自分についてほとんど語らない。語らないというのは語弊がありそう。海のように穏やかで、常に受け入れ、静かなひと。
けれど誰もが彼の存在を必要としている。メンバー4人だけじゃなく、ファンもそうである。
彼をみていると、わたしは定期的に大野さんの凄さを周囲に伝えたくなる。大野くんの存在は、嵐の根幹で、宝物なんだよ、と。
嵐の旅路は、つねに順調でいたわけではない。
ハワイで会見という華々しいデビューこそ飾ったが、ジャニーズの先輩グループが輝かしく活動しているなかで、コンサートのお客さんが思うようにうまらない、シングルの売上が伸びない、そういう時期があった。わたしの住む地域でも、彼らのレギュラー番組だったお昼の生放送が、番組自体は終わっていないのに、地域の放送枠では最終回になってしまい、ショックを受けたことがある。
あのときは泣いた。大人の事情を初めて知った。
彼らはきっと模索していたはずだ。5人で話し合い、5人でこのグループをどうしていくか。必ず、5人で。
わたしは彼らの情報を得る機会が少なくなり、とても不安だったけれど、あるとき観たのが、How's it going?のコンサートDVDである。
このメイキング映像に映る彼らは、本当に楽しそうで、お互いがお互いを大好きだということが伝わってきた。5人でいるときの空気に、強い絆がみえた。
ああ、嵐は大丈夫だ。
そう思った。
やがて彼らの思いは実を結ぶ。
知っての通り、嵐は、トップアイドルグループとして、走り出した。
シングルやドラマが立て続けに決まり、レギュラー番組は増え、日本中誰もが彼らを知り、コンサートチケットがとれなくなり、ファンクラブの人数は、ジャニーズトップとなった。
寂しく思うきもちは一瞬で、彼らの活躍がたくさん見られる時間は、単純に嬉しかった。
なにより、トップに立ったいまでも、5人の空気は変わらず、いつまでもお互いや、周囲に気を配る、優しいひとたちだったから。
わたしは、この5人が変わらないでいてくれることがなによりも嬉しかった。
嵐は、ファン以上に、嵐のことが大好きなのだ。
5人はそれぞれが多才だ。CM、ドラマ、バラエティ、報道など、個人の仕事でも十分活躍している。
けれど、5人が揃ったとたん、空気が変わる。
あの瞬間はなんといえばいいのか。
わたしは、グループとして存在する嵐が世界でいちばん好きだ。
おかえりなさい、と言いたくなる。
とくに、休止の発表をしたときのあの優しい雰囲気は、5人だからこそできたものだと思っている。
会見はたしかに悲しかったけれど、嵐の雰囲気が良すぎて、「このひとたちは最高だな」という気持ちが溢れた。
わたしは、優しい5人が大好きだ。
きっとこの5人だったから、好きになれた。
休止まであと2ヶ月をきった。
約束のないおやすみはいずれ始まる。
本当は何度も、つなぎ止めたいと思う日はあるけれど伝えなくちゃいけない。
宝物のような時間をありがとう。
彼らはいま、この大変な状況のなかでも、彼らができるやり方で、ファンと繋がろうとしてくれている。嵐が嵐で居てくれる今を、彼らが見せてくれた夢をずっと忘れない。
だから、やがてくるその日。
こころから、行ってらっしゃいと、手を振れるように。
わたしは5人にこの歌を贈りたい。