アドボカシーで変わるHR
アドボカシーという言葉をご存知でしょうか。弁護、支持、擁護などの意味を持ちますが、日本語にするといまいちよく意味がわからない言葉です。医療やケア、人権問題、環境問題などの分野で使われることが多いようです。
このアドボカシーという言葉が今後HRの文脈で使われることが増えると私は予想しています。
従業員をHR担当者がサポートするような意味で使われることもありますが、それよりもセルフアドボカシーという概念をHRの現場で散見することが増えました。
セルフアドボカシーとは?
セルフアドボカシーとは障害者支援や学生支援の文脈で使われることの多い言葉です。
支援する人が支援する方法を考えるのではなく、支援される人が自ら支援してもらいたい内容を要求するような態度とでもいいましょうか。
例えば、「ここまでは私はできる、だからあとのこの部分は支援して欲しい」というように支援される側から要望を明らかにして、的外れな支援を抑制するような効果があります。
こういった、できるところまでの自助の精神を支える活動としてピアグループという同じ境遇をもつ人どうしで支えあうピアサポートという活動などがあります。
今、目の前で起きている採用に関しての印象ですが、ひと昔前と比較してさまざまな条件を要望する採用候補者が増えたように思います。
勤務時間、勤務日数、子どもの長期休暇時の勤務調整などなど。
残念ながら、そこまでのフレキシブルな勤務制度がまだ整備されていないので、業務委託契約にしたいという方もいます。
今はまだマジョリティではありませんが、こういった希望を持つ人が「普通」の時代はくると考えています。
現在、業務委託契約では加入できない「厚生年金制度」、「労災保険」、「雇用保険」などの制度はこういった実情に合わせて変わっていくのではないかと思います。
セルフアドボカシーと公平性
このように会社のいたるところで起きるセルフアドボカシーに基づく意思表示に対して企業側の特にHR担当者は公平性(Equity)に向き合う必要性が多くなると考えています。
労務の面で、これまでの最大公約数的なルールからの飛躍、従業員側のモラルや自律に必要なマインドセットの醸成、採用面での配慮など新しい考え方を組織にインストールする必要がでてくるでしょう。公平性を取り扱うとは、これら個別の要求を可能な限り充足させつつ、全体としてワークするようにするというとても難易度の高い活動のように思えます。
ベースとなる所属メンバーの成熟度
ティール組織という言葉を聞いたことがありますか?フレデリック・ラルー氏の著者で有名になった言葉ですが、従来の目標達成を第一に考える組織(オレンジ:達成型)の組織ではなく、個人が意思決定できるフラットな組織(ティール:進化型)を意味します。
詳しくは割愛しますが、組織の進化には、レッド(衝動型)の組織、アンバー(順応型)の組織、オレンジ(達成型)の組織、グリーン(多元型)の組織、そしてティール(進化型)の組織のように発展していくと説明されています。
しかし、ティール組織のようなフラットな組織の実現は無理だという人も少なくありません。
わたしは、こういった人達のマインドセットの前提が、そもそもトップダウンや目標指向型のレッド、アンバー、オレンジの発想を前提にしているからだと感じています。
ティール組織を達成するには、それぞれが対等(フラットな関係)であり、組織はメンバー全員のものであると考えたり、「組織の社会的使命を果たすために自分ができること」と「自分自身の目標達成のための行動」が一致しているという強いインテグリティ(内面と外面の一致)が求められます。つまり所属するメンバーのマインド的な成熟度が求められるのです。
前置きが長くなりましたが、セルフアドボカシーが機能する組織とは、「組織の社会的使命を果たすために自分ができること」、「自分自身の目標達成のための行動」が一致することがまず前提にあり、その上で自分の要求をしているという当人の自覚が必要になるのです。
上記の前提や前置きがないと経営陣は「なんのために、そんな個人の我儘を聞く必要があるの?」という状態になってしまうことでしょう。
セルフアドボカシーが機能できる組織はより高次な状態での組織パフォーマンスを発揮できることが想像できます。
すべての働く人の人生のホールネスの価値を考えはじめた経営者が組織にアドボカシーを取り入れはじめるとHR部門や、そのスタッフはまた新しい存在になっていくのかもしれませんね。