句集を鑑賞しましたシリーズ! 句集「湯相」(浅川正、角川書店)
私が所属する俳句結社「雲の峰」の副主宰である浅川正さんの句集「湯相」を鑑賞いたしました。
俳人として、また一人の人間としてとても尊敬する方です。
描写の言葉がとても的確で素晴らしい俳句を作られます。
句会でも浅川さんの句を取ることが多いです。
いつになき肩の近さや春の月
奥様と二人で春の月を見ているのでしょう。肩が触れ合っているのでしょうね。とてもほのぼのとした空気感がとても心地よく、春の満月が煌々と美しい感じが伝わってきます。
古茶淹れて村のうはさの始まりぬ
村の自治会か何かの会合でしょうか。噂話に花が咲いている感じが伝わって来てほのぼのさと、自分が噂されているとしたら怖さもありますね。大体その場にいない人が話のネタになりますよね。
古茶という季語も良くきいていますよね。
背から尾に光を移し蜥蜴消ゆ
とても綺麗な光を感じる一句です。背から尾に光を移すという表現がとても素晴らしいと思います。
蜥蜴が消えた後の光も何処かはかなくて美しいです。
放ち鳥ほどなく風をとらへけり
”放ち鳥”という季語は、八幡市岩清水八幡宮で行われる八幡方生会にて行われる鳥を放つことです。
平成16年に137年ぶりに古来からの形のものが復活したようで、伝統文化が続いていくことは大変喜ばしいことです。
ほどなく風をとらえたということですから、心配していた鳥がしっかりと羽ばたいていく様子が描かれており、作者の心が不安から安心へ動いていく様子が良く描写されている素晴らしい俳句だと思います。
切干で祝ふ銀婚記念の日
切り干し大根で質素に結婚25周年を祝う作者。いい雰囲気ですね。
私も今年の10月に銀婚式を迎えるので、何で祝おうかなあって考えています。
西瓜出て何も決まらぬ村会議
デザートのスイカが出てきましたが、何一つ決まってません!
何だか会議のあるあるですが、村会議という言葉からほのぼのとした雰囲気が伝わってきて、こちらもほのぼのとします。
冬めくや生くる形に虫の殻
何の虫かは存じませぬが…。
生きる形という捉え方が秀逸です。
冬に入った初冬の感じがとても良く表現されています。
三月尽二臓一腑をゑぐり捨て
ご自身のふたつの臓とひとつの腑を切り取った作者の気持ちが伝わってきます。
臓器を切り取ったが、三月も尽きまだまだ生きている自分を励ましている感じが身にしみて伝わってきます。
桜餅食うてお迎へ待つとせん
上の句を受けたかの様な一句です。
桜餅を頬張りながら、いつでも死を受け入れて達観している様がグッと伝わってきます。
風ふはとつかみ白鷺発ちにけり
さっきの”放ち鳥”の句の描写も素晴らしかったですが、この句の描写も素晴らしいです。簡単なようで、中々こうした描写ができないのですが、白鷺が雄大に飛び立つ感じはよる描写されていると感じます。
その他、いいなあと感じた句です。
千匹も殺す力で蚊の打たる
山裾が庭の境界小鳥来る
岩ごとに音をたがへて秋の水
明王の火焔に掛くる冬の水
春障子閉ぢて湯相に耳澄ます
翅たたみそこね天道虫走る
半跏して邪念に遊ぶ端居かな
ひと声を上げて掃かるる秋の蝉
エンジンの音そこここに豊の秋
一木に雀三千冬ゆやけ