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句集鑑賞シリーズ 句集「明るき空のまま」(岸田尚美)

茨木市俳句協会でお世話になっている岸田尚美さんの第一句集です。
この句集からは、優しさ、ぬくもり、思いやりなど、作者のあたたかさが伝わってきます。
俳句ってある程度まとまったものを鑑賞するとその作者の人柄など、深層にあるものが伝わってきます!ほんと、俳句っていいなあと思います。

それでは、気になった俳句を鑑賞させていただきます。

荷の紐は母の手結び寒蜆

作者は、鳥取県のご出身ということですので、宍道湖の蜆を想像します。送られてきた蜆の包は母の手結びということ!母だと一瞬で分かる独特の結び方があるのでしょうねw
荷を受け取ってすぐ母に想いを寄せる作者の想いがありありと伝わってきます。寒蜆ですので、これから春になる季節の変わり目であるのでしょう。お母様の想いの詰まった蜆をいただいて元気が出たことだと思います。

春雨を吸ふほどに土黒々と

春の雨を吸っていくたびにどんどんと土が黒くなっていきます。合わせて春の土の香りも漂ってきてとても春らしい暖かさを感じさせてくれます。

皆勤を母も褒められ卒園す

幼稚園に2年間か3年間、送り迎えをする母親としての作者。お子さんもお母さんも休むことなく皆勤を褒められたというほのぼのとする卒園式での一幕ですね。お疲れ様でした!
母としての安心感と小学生に上がる少しの不安な気持ちという微妙な雰囲気も感じることができます。

筍掘るすつかり村の嫁となり

この句は、”すつかり村の嫁となり”がめちゃくちゃ効いていますよね。時代を感じることができます。
現在では、家に嫁ぐという感覚はなくなりつつあり、当人同士の結婚という感覚が一般的だと思いますが、掲句では”村の嫁”ということで村という共同体の一員として加わるという感覚なのでしょう。
現代社会では、この様な感覚は皆無でしょうし、数十年経つと、この感覚を理解することも出来なくなってしまうのでしょうね。そういった意味でもこうして俳句として残ることに素晴らしい価値があると思います。
村の人たちと一緒に筍を掘りながら、気付いたら家の嫁ではなく、共同体の村に嫁として迎え入れられて良かったという安心感の様なものを感じることができます。

気に入りの絹の単衣を納棺す

お母様のお葬儀でしょうか。お母様が気に入っていた絹の単衣を一緒に納棺された一景。
自分が肩身として持つのではなく一緒に納棺してあげるという景に、作者の温かい気持ちを感じます。

赤とんぼとまるなペンキ塗りたてぞ

掲句とでで虫の句「車道なるぞでで虫速度上げたまへ」、この二句は、赤とんぼやでで虫というかよわい生き物へ対する作者の愛情が溢れ出ていてとても好きな句です。
”ぞ” や ”たまへ” という修辞がとても良く効いているのだと思います。

南無南無と真似る小さき手秋彼岸

私が小さい頃、おばあちゃんが仏壇に般若心経をあげている姿を思い出しました。
就学前の小さい子どもが手を合わせている姿が伝わってきます。
目に見えないものに対して手を合わせることは、とても大切なことだと思います。

花は葉に軍用阿片採りし村

作者がお住まいの茨木市の茨木市史には、ケシ栽培の話や関連のコラムなどが掲載されています。時代の流れの中で医療用としてケシ栽培が行われていた様です。
”花は葉に”という季語によって、今、目の前の桜が葉になって行く時間の経過と共に、ケシが栽培されていた100年くらい前から現在までの時間経過も感じさせてくれます。
時間のスケールの大きな一句で感慨深さを感じさせてくれます。

翅たたみ影もたたみぬ黒揚羽

揚羽蝶の勇壮な雰囲気が伝わってきます。
翅をたためば、その影も一緒にたたまれてくる。素晴らしい客観写生の一句です。

春コート脱ぎ説得の席に着く

これは、作者の強い意志が伝わってきます。何だか、軽快さと覚悟が素敵な雰囲気です。きっと説得も成功に終わったのだろうと思います。
春コートですから時期は、2月から3月の年度末ですよね。進学か就職か退職か、年度末の様々な決断が想像されます。
清々しい決意がとても気持ち良いです。


春風が袖ふくらます駅ホーム
手足足先涼やかに太極拳
出しきらぬ嚏に貌の伸び縮み
不揃ひが鼻先に寄る柚子湯かな
絵双六負けてやらねば収まらず
悴む手ほぐすに息の足らざりし
水澄むや円き器に円き水
割り切れぬ事多き世や海鼠噛む
たんぽぽの飛びたき絮に息を貸す
鬱蒼と茂り劉備の廟を守る
地におとす影より黒き揚羽蝶
汗流しつつ祝福を通訳す
飛んできて話の腰を折る秋蚊
蹲や沈む落葉に浮く落葉
ほめことばどの子も貰ひ卒業す
知人かもしれず朧の遠会釈
ほうたるの闇深まるを待てず飛ぶ
風鈴をつればたちまち風生まる
秋うらら大樹労ふ祝詞かな
身丈より長き案山子を横抱きに
豊年やよき音たててポン菓子機
走り根の木の実を溜むるため曲がる
稲刈りしあとの日差のありあまる
山姥になりきり聞かす炉辺話
氷に上る魚俳人は坂登る

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