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ショートショート:タイムマシン

 太陽が燦々と照っている。冷房をつけず、窓を全開にしているから、夏風がレースのカーテンをはためかせている。
 ちょっと探し物ついでに部屋を片付けているつもりが、次から次へと思い出の物が出てきて、手が止まってばかりで仕事が進まない。昔の写真。匂いけしごむ。手紙。
見たり、読んだり、匂いをかいだり。
 その内奥から沢山カセットテープが出てきた。テープを廻した途端、あの頃の曲が私をあの頃へ引き戻す。
 気がつくと私の部屋はタイムマシンになって、過去へ過去へと私を連れて行く。
2021年から2000年、そして90年、80年へ。。。
 カセットテープから流れる昔の音楽を聴きながら、要らないものをどんどん捨てていった。どんどんごみ袋は太り、どんどん部屋は片付いた。太陽は相変わらず能天気に明るく、その光は部屋の中にまで入り込んでいた。
 突然、聞き覚えのある声が聞こえた。カセットテープのB面の最後。そういえばかなり昔、当時仲の良かった人から好きな曲だけを入れたオリジナルテープをもらった事があった。でももらった後すぐにささいな喧嘩をして、忙しかった事もあって、そのままそのテープを聴くことは無かった。
 何度も巻き戻して聞いた。懐かしい声。


 タイミングというものがある。タイミングを間違えると成功するものも成功しない。成就するものも成就しない。
 テープをもらってすぐこのメッセージを聞いていたら、私の人生は大きく変わっていたかもしれない。
 しかし全てはタイミングなのだ。
 窓の外の太陽が明るすぎる為に、一瞬部屋が絶望的に真っ暗に思える。

夏風がカーテンを揺らしている。音も無く。

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