超弦理論とD-braneの聖地巡礼!?

ゆりかごAdventCalender3日目、京都大学理学部物理学科の佐藤ですよろしくお願いします。1日目のガマ君が宣伝してくれたように2024年11月20日(水)から11月23日(土)に行われました京都大学の学祭「北部祭典」にて、「ぶつりのあとりえ。」という団体で冊子販売、ポスター展示に携わる機会があり、その時に書いたポスターをパクります。
販売している冊子は年内までオンライン販売しています!


はじめに

素粒子を「ひも」として記述する超弦理論は量子重力の候補として有力視される現代物理学における非常に美しい理論です。Polchinskiにより提案されたD-braneと呼ばれる弦の端点を拘束する高次元の膜状の部分多様体を導入することで超弦理論は第二次革命期を迎えました。そのPolchinskiがD-braneという超弦理論で最も重要な概念の一つを思いついたのは、京都大学近くのコインランドリーと言われてる。聖地巡礼ということで、この機会にD-braneのお気持ちと仲良くなりましょう。

超対称性について

超弦理論の「超」は超対称性を表します。一言で言うとbosonとfermionの対称性のことで、SUSYと呼ばれたりします。
超弦理論では10次元という高次元の時空を考えています。現実世界は空間3次元+時間1次元の4次元に見えるわけですが、10-4=6次元は小さいscaleすぎて観測にかからないと言われています。6次元空間の決め方から4次元の超対称性の数(超電荷の数$${\mathcal{N}}$$)を決まったりします。我々の時空は$${\mathcal{N}=1}$$のSUSYがあるだろうと考えられていますが未だ観測では見つかっていません。

超弦理論

素粒子物理学では、自然界の基本的な相互作用(強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用)を統一的に記述する「標準模型」が非常に成功を収めています。標準模型は多くの高エネルギー実験結果と整合し、素粒子を点状の存在として扱います。このモデルでは、物質粒子(三世代)とゲージ粒子を用いて自然界の力を説明します。しかし、このモデルには以下のような未解決の問題が残っていました。

  • なぜ物質粒子が三世代存在するのか?

  • 重力が標準模型に統合されていない。

これらの問題を克服するために登場したのが「超弦理論」です。
超弦理論では、素粒子を「点」ではなく「ひも」として記述します。この記述により、標準模型では理論的な問題とされていた アノマリー(対称性の破れ) がコンシステントに打ち消されることがGreenとSchwarzによって発見されました。この発見により、超弦理論は「第一次革命」を迎えました。
超弦理論の基本的なアイデアは、素粒子の振る舞いをひもの振動として記述し、場の理論を拡張するものです。超弦理論で記述される作用の一例は以下のようになります。

$${ S = \frac{1}{4\pi}\displaystyle\int d^{2}z\left(\frac{2}{\alpha'}\partial X^{\mu}\bar{\partial}X_{\mu} + \phi^{\mu}\bar{\partial}\phi_{\mu} + \tilde{\phi}^{\mu}\partial\tilde{\phi}_{\mu}\right) }$$

ここで、作用は物理の運動方程式を導く便利な道具と考えることができます。新たに導入された $${\phi_{\mu}}$$ はフェルミオン場を表します。

フェルミオン場は、次のような境界条件に応じてセクターに分けられます。
- **Ramond (R) sector**: $${\phi(w + 2\pi) = +\phi(w)}$$
- **Neveu–Schwarz (NS) sector**: $${\phi(w + 2\pi) = -\phi(w)}$$
さらに、フェルミオン場 $${\phi}$$ とその対 $${\tilde{\phi}}$$ がどのセクターを取るかにより、R-R, NS-NS, R-NS, NS-Rの4種類の組み合わせが存在します。これらの境界条件と作用から導かれる運動方程式を満たすように$${\phi}$$で物理状態による空間を構築することで、どのような粒子が弦には含まれているのか分かるようになります。結果だけ載せるとこんな感じになります。

$${ \begin{array}{c|c|c} & m^2 < 0 & m^2 = 0 \\ \hline \text{NS-NS} & T & \phi, B_{ij}, g_{ij} \\ \text{R-R} & \text{無し} & C_i \quad (i \text{は偶数}) \\ & & C_i \quad (i \text{は奇数}) \\ \end{array} }$$

  • NS-NSセクターの粒子

    • ディラトン ($${\phi}$$):スカラー場

    • B場 ($${B_{ij}}$$):反対称テンソル場

    • 重力子 ($${g_{ij}}$$​):重力を担う粒子

  • R-Rセクターの粒子

    • $${C_p}$$​:p-form反対称テンソル場

これらの粒子が弦の振動モードとして現れることが超弦理論の特徴です。$${C}$$について偶数と奇数どちらを選ぶのかにより、TypeIIA型、TypeIIB型の超弦理論が存在します。他にもTypeI型、Heterotic型SO(32)、Heterotic $${E_8 \times E_8}$$など5種類の超弦理論が存在します。しかしこの5種類の理論の間には双対性が存在し、これはD-braneの導入により理解されることになります。

D-braneの導入

弦理論では、弦には両端を持つ 開いた弦(Open String)と閉じた形を持つ 閉じた弦(Closed String)の2種類が存在します。Dp-braneは、(p+1)個の方向にNeumann境界条件を課し、残りの(9-p)個の方向にDirichlet境界条件を課す超曲面として導入されます。イメージ的には、弦の端点がこの超曲面に拘束されている状況を考えると分かりやすいです。

R-Rで現れる反対称テンソル場の役割は、Polchinskiによって明らかにされました。 彼は、D-braneがこれらの反対称テンソル場のチャージを持つことを示しました。
NS-NSセクターにおけるD-braneの作用は次のように記述されます。

$${ S_{Dp} = -\mu_{p}\displaystyle\int d^{p+1}\xi \, \text{Tr} \Bigg\{ e^{-\phi}\sqrt{-\det \big(G_{ab} + B_{ab} + 2\pi\alpha' F_{ab} \big)} \Bigg\} }$$

ここで、

  • $${\mu_p}$$: braneの張力

  • $${G_{ab}}$$: D-brane上の計量

  • $${B_{ab}}$$: NS-NSセクターの反対称場

  • $${F_{ab}}$$: D-brane上のゲージ場のテンソル

この作用にいくつかの近似を加えると、低エネルギー極限では次の形になります。

$${ S_{Dp} = -g\mu_{p}V_p - \displaystyle\frac{1}{4g_{\text{YM}}^2} \displaystyle\int d^{p+1}\xi \left( F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta} + \frac{2}{(2\pi\alpha')^2}\partial_{\alpha}X^a\partial^{\alpha}X^a \right) }$$

この作用は、(p+1)次元のU(1)ゲージ理論と、(9-p)次元のスカラー場の理論として解釈できます。

D-braneは、(p+1)-formの場にカップリングし、その作用のleading termとして以下の項を持ちます。 $${ \mu_{p}\int_{S_{p+1}} C_{p+1} }$$ また、超対称性を考慮してフェルミオンを導入すると、D-braneは低エネルギー極限で**$${\mathcal{N}=1}$$ Super Yang-Mills理論に対応します。
特に、D3-braneの低エネルギー有効理論が4次元の超対称ゲージ理論として記述されることは、後のAdS/CFT対応への導入ともなります。

双対性とD-brane

T双対性は、TypeII弦理論において空間の1次元がコンパクト化された際に現れる基本的な対称性です。 具体的には、TypeIIA弦理論を半径 $${R_9}$$ の円周上にコンパクト化した系が、半径 $${\frac{\alpha'}{R_9}}$$ の円周上にコンパクト化されたTypeIIB弦理論と等価になります。 この双対性の下で、以下のような変換が起こります。

- D0-braneはD1-braneへと変換される。
- 特に、コンパクト化された次元 $${X_9}$$ に直交する位置にあるD0-braneは、T双対性の作用によりその次元に沿って広がるD1-braneとして理解されます。

D0-braneの低エネルギー理論は、超対称な行列量子力学として定式化されます。N個のD0-braneを考える場合、brane間を結ぶ開弦のzero modeが$${N\times N}$$行列として振る舞い、この系は16個の超対称性を保持します。しかし、空間次元がコンパクト化されると状況は複雑になります。これは、D0-brane間の距離に依存する開弦の質量が周期的に変化し、無限に多くの自由度を考慮する必要が出てくるためです。

この問題に対処するため、D0-braneが円$S^1$上を運動する場合を考えると、これは無限個のD0-braneのコピーが平坦空間R上に存在する状況として理解できます。このとき、D0-braneの位置を表す行列$${X_9}$$は周期的な制約を受けます。この制約された無限次元の行列系は、微分演算子とゲージ場の組み合わせとして解釈することができ、これがD1-brane上のゲージ理論との対応を与えます。

実際、この対応は作用レベルでより具体的に確認できます。D0-braneの行列模型のラグランジアンは、T双対性の下で2次元 SuperYang-Mills理論のラグランジアンに変換されます。特に、行列の交換子項はゲージ場の運動項に対応し、結合定数も適切に変換されることで、両者の理論が完全に等価であることが示されます。この結果は、弦理論における低次元と高次元のゲージ理論の間の深い関係を明らかにします。D0-braneの0次元の行列模型が、T双対性を通じて1次元高いD1-braneのゲージ理論と結びつくという事実は、弦理論における次元の違いを超えた統一的な構造の存在を示唆しています。

参考文献

  • J. Polchinski, "Dirichlet branes and Ramond-Ramond charges," Phys. Rev. Lett. 75, 4724 (1995).

  • J. Polchinski, String Theory, Volume 1: An Introduction to the Bosonic String, Cambridge University Press (1998).

  • J. Polchinski, String Theory, Volume 2: Superstring Theory and Beyond, Cambridge University Press (1998).

いいなと思ったら応援しよう!