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青いワンピース(2)

付き合って初めてのデートは近所の商店街だった。まだ会話も途切れ途切れの僕たちには、話題が尽きない最高のデートスポットだった。

「この本読んでみたいの」
「そうなんだ、おもしろそうだね」
「おいしそうなパンがいっぱい」
「いい匂いがするね」

真美が話してくれる言葉に返すことが精一杯で、「歩き疲れてない?」とか「お腹すいてない?」とかそんな気遣いひとつもできなかったけど、真美はずっと笑顔で喋りかけてくれた。
なにか僕からも話さなきゃ、とやっと口から飛び出させた言葉はセンスのかけらもないものだった。

「このワンピース、安いね」

閉店セールをしていた店に「大特価!」の値札が貼られた青いワンピースを指差して僕は言った。

「本当だ、安いね」

真美は楽しそうに笑って、そのワンピースを手に取った。

「買おうっと」
「え?買うの?」

話のタネに過ぎなかったワンピースなのに。

「思い出のワンピースになるから、大事な日に着るね」

体の前で青いワンピースをひらひらさせる真美は、嬉しそうに笑っていた。

つづく

#小説 #恋愛 #短編小説

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