自転車を担いだまま、君たちはどこまで登る?〜 『伏見稲荷と一期一会』〜
人生の再スタートのため、故郷の伏見稲荷大社まで「ばあちゃんの形見の指輪を売ってもいいか」聞きに来たという、彼と出会った帰り道。
僕は、彼のことを考えていました。
「また、この伏見稲荷で会えたら嬉しいな。そのときは、少しでも彼の人生にいい風が吹いているといいなあ」
そんなことをぼんやり考えながら、階段道を下って歩く。
「もうやめよーぜぇ…」
「もう少し行けるとこまで行こうぜ!」
「さすがにキツイって」
「じゃあ、じゃんけんで俺が勝ったらもう少し登ろう。お前が勝ったら終わりな!」
中学生だろうか、高校生だろうか。元気な2人の男子学生が声を大にして何か話している。
僕は、ぼんやり眺めつつ彼らの横を通り過ぎた。
会話は耳に入っていたが、「指輪の彼」のことを考えていたので、あまりちゃんと見てはいなかった。でも、ふと彼らのことが気になった。
何で、この階段道にチャリがあるの?
どうやら階段の端っこ、傾斜になってる部分をマウンテンバイクで登ってきたみたいだ。
なるほど、なんか面白いことしてるな!
急に彼らのことが気になって、振り返ってみる。
ちょうど、じゃんけんの決着がついたところみたいだ。一人が自転車を担ぎ上げ、階段を登り始めた。
「ならいいよ、俺はこのまま登るからな!」
もう一人はマウンテンバイクにまたがり、階段脇の坂道を立ち漕ぎで追いかける。
「若いっていいなあ」
そんなことをぼんやり思いつつ、僕はまた階段を下っていく。
君たちは、まだ稲荷山の1/5も登っていない。
人生100年時代の中で、ちょうど今君たちが立っている位置と同じくらいだ。
彼らは、自転車を抱えたままどこまで登るのかな?
どこで辞めたとしても、それなりに楽しかった思い出には残りそうだ。
でも、上まで行けば行くほど、あとで思い返したとき、より馬鹿らしくて、より面白い思い出になるだろう。
「俺も昔、意味もなくひとりで40kmくらい走ったりしたなあ…」
昔のことを少し思い出した。
でも、考えてみれば、自分だってまだ30代になったばかり。
山の半分も登っていない。ようやく1/3ってところか。
失敗したっていい。
まだもう少し、思うままに、やりたいことをやり続けよう。
天に運を任せるのもいいじゃないか。
じゃんけんで道を決めるように。
気ままにやろう、なんとかなるさ。
なんとかするからさ。
終わりに
今回は、前回の記事と同じ日、その帰り道の小さなエピソードを切り取ってみました。
次回は、僕が稲荷山ランニングを始めた頃の印象的なエピソードを一つ、書いてみたいと思います。
また、素敵な出会いがあることを楽しみにしています。
ー 2020.11.03. 充紀
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