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「自分の好きが、誰かにとっての価値になる」 ── 理系とーくラボ代表 ともよしさんインタビュー

「好きなことに没頭している人たちを集めて、そんな人たちの持つ価値が適切な誰かに届くような仕組みづくりをしたいです。そうすれば、楽しく生きる人が世の中に増えると思うんです」── そう語るのは、科学でつながるオンラインコミュニティ「理系とーくラボを主催するともよしさんだ。

▲ 理系とーくラボ代表、ともよし(川村 智祥)さん

理系とーくラボ(略称 : RTL)とは、高校生や大学生、大学教員、企業の研究開発員、エンジニアなど、さまざまな立場の人たちが「科学」というキーワードのもと集まって、世代や分野の垣根を超えてつながりを持てるオンラインコミュニティだ。コミュニティ内ではフリートークや情報交換を楽しんだり、勉強会や交流会などのイベントに参加したり、受験勉強や研究、仕事などの悩みを誰かに相談をしたりなど、さまざまな交流をすることができる。

メンバーは必ずしも理系の人だけには限らない。「仕事とは直接関係ないけど、知らない分野について学ぶこと自体が好きだ」「色々な業界の人とつながりを持って、知見を広げたい」などさまざまな理由で、科学とは一見関係のない文系研究者や事務職、ライターなどといった人たちも理系とーくラボに参加している。

▲ 出典 : 科学系オンラインコミュニティ「理系とーくラボ」 | CAMPFIRE Communiity

人とのつながりが希薄になりつつあるwithコロナの昨今。「科学」という切り口から独自の価値を生み出しているコミュニティ「理系とーくラボ」について、活動内容やその魅力を代表のともよしさんから伺った。

 プロフィール : 川村 智祥(かわむら ともよし)
理系とーくラボ代表。京都市在住、三重県四日市市出身。名古屋大学大学院にて創薬科学の博士号を取得。化学メーカーでの研究開発職を経たのち、現在は研究開発関連のITベンチャーにて広報を担当している。2017年、大学院在籍中に科学メディア「理系とーく」を立ち上げ、2020年には科学系オンラインコミュニティ「理系とーくラボ」を始動。「世界中全員のありのままを活かし合える、楽しくてやさしい世界」を目指し、科学でつながるコミュニティを運営している。また、現在は新型コロナウイルスの蔓延により休止中だが、飲み食いしながらおしゃべりできるオフラインバーを「コワーキング京都駅」にて不定期で開催している。専門分野は有機合成化学。趣味はテニスとボルダリング。(→ Twitter / 理系とーく / 理系とーくラボ

取材・文・写真 : 充紀

科学でつながるオンラインコミュニティ「理系とーくラボ」とは?

理系とーくラボは、学生から社会人まで、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが「科学」をキーワードに集まる科学系オンラインコミュニティだ。主な活動の場としては、オンラインチャットサービスの「Slack」を使用している。

Slackとは「メンバーだけがログインできるクローズドな掲示板」のようなもので、このツールを通してテキストによる交流が日々活発に行われている。トークテーマはさまざまで、誰かが発表した科学論文について盛り上がることもあれば、世間で話題のニュースについて議論することもある。慣れ親しんだメンバーと、日々の何気ない雑談を楽しむ人も多い。

▲ メインの交流はオンラインチャットツール「Slack」の専用グループにて行われる。「フリートーク」や「memo」などの掲示板(チャンネル)では、Twitterのようなイメージで気軽に投稿や交流が楽しめる。

「メンバーは学生と社会人が半分ずつくらいですね。全体的に、優しくて人とのコミュニケーションが好きな方が多いです。なんでも話しやすい雰囲気で、世代や分野の垣根を越えて、いい意味でメンバーの距離が近いのかなと感じます。」

Slackよりも自由な交流ができる場所としてバーチャルバーも用意されている。通称「ラボバー」だ。オンライン上のバー空間で自分のアイコンを自由に動かし、近くにいる人と音声で直接話すことができる。複数人での会話も可能だ。

▲ バーチャルバーサービス「SpecialChat」を利用した理系とーくラボのオンラインバー(通称ラボバー)。誰かとおしゃべりしたい人は「作業中(喋れる)」のテーブルやバーカウンターの近くに行けば、そこにいる人たちと交流できる。「もくもく(喋らない)」ゾーンも用意されているので、仕事や勉強時の「もくもく会」の場所として利用することもできる。

イベントも高頻度で開催!分野を超えてさまざまな人たちと交流できる

理系とーくラボでは、ラボバーやZoomを使ったオンラインイベントも月35〜40回ほどと高頻度で行われている。メンバーなら誰でも自由に参加可能なだけでなく、イベントを主催することもできる。

イベントの内容は幅広い。「医学・免疫学に関する勉強会(炎症について)」などといった、誰かが専門分野について詳しく解説してくれる学びの多いイベントもあれば、「今月読んだ本について語る会」「大好きなゲームの感想&布教の会」などといった科学とは関係なさそうなものもある。

「これまでに実施したイベントの例を挙げると、科学系なら『ノーベル賞を予想する会』などがあります。物理学賞や化学賞など、自分の興味のある分野の受賞者をそれぞれ予想して、その理由を解説したりするイベントです。各分野に詳しい人が研究をわかりやすく解説してくれるので、当たった外れたに関係なく聞いてるだけでも面白いですね。

ちなみに、2021年はたまたまぼくの予想が当たりまして、このときは『不斉有機触媒』という研究について、『不斉ってなに? 有機触媒ってなに?』ってことを理系じゃない人にもわかるように解説して、『それがなんですごいの? どう利用されるの?』なんてことを話しました。

科学系以外のイベントなら、『無益の会』というイベントも面白かったですね。『有益なことを喋ってはいけない』というルールのもと、サイコロで出た目に従って『わたしだけ? 小さなこだわり』みたいなテーマトークで盛り上がりました。某テレビ番組のような感じですね(笑)」

▲ 理系とーくラボで過去に行われたイベントの一例。イベントの開催頻度は高く、直近の約1ヶ月で例を挙げるだけでも、科学系イベントの「量子力学お好きな皆様とサイエンス★ナイトフィーバー!」、仕事系の「実践スタイルでデザイン思考を身に着ける会」、学生に役立つ「〇〇のプレゼン発表練習会」「学生と社会人の違いを語ってもらう会」、さらには趣味に関する「2021年漫画アニメ総括&2022年冬アニメ(1月スタート)経過報告」などといったものまで幅広い。

ほかにも、新たに加入したメンバーの希望があれば、互いに自己紹介し合える「ウェルカムトーク」イベントをともよしさんが主催してくれるなど、理系とーくラボにはメンバー同士がつながりをつくって交流しあえる仕組みが整っている。同じ「科学」という共通項を持っていながらも、分野や立場が異なる人たちが集まることで、さまざまな関係性やメリットを生み出している。そんなコミュニティが、理系とーくラボだ。

フラットな関係性がそれぞれの持つ価値を引き出し、互いにメリットを生んでいく ── 理系とーくラボが持つ魅力

前述の通り、理系とーくラボの参加者には高校生、大学生、大学院生といった学生も多い。そんな学生メンバーにとって、理系とーくラボは自身の研究内容や進学・就職などについて、先輩たちの意見をもらえる貴重な場所となっている

「高校生の方からは『科学の色々な分野に興味があるし、進路のこともまだ考えている最中だから、色々な人から話を聞けるだけで楽しい』といった感想をいただけまして、進路選択・キャリア選択にも役立てているのかなと感じています。高校生のころって、進学先はどの学部、どの学科を選べば自分に合っているのかって、よくわからないじゃないですか。いろんな人たちと話しているなかで自分がどんなことに興味を持っているのか明確になってきますし、どんな学部・学科に進めば興味のある分野を学べるのかなどを知ることもできますよね。

大学生のメンバーだと、論文の読み方を先輩に教えてもらったり、自分が書いたレポートにアドバイスをもらえたりすることもありますね。以前、学部生の方が書いた申請書を添削してあげるってことがありまして......。そのときは5人以上の先輩たちが集まって、時間をかけて丁寧に添削してあげたり質問に答えてあげたりしていまして、そんな様子を見て『なんて優しい世界なんだ』って、コミュニティを立ち上げた身として嬉しくなりました。」

もちろん、加入するメリットがあるのは学生だけではない。

「社会人になると、新たな出会いが減ってしまったり、外部との交流がなくなってしまったりする人も多いですよね。それで『繋がりを求める』とか、『頑張っている仲間と刺激し合う』とか、そういった使い方をしている人が多いのかなと感じています。また、転職の相談ができたり、仕事に役立つ情報が得られたりなど、情報共有の場所としても役立ててもらえていますね。

あと、大人の『下の世代を育てたくなる』という需要も満たせているのかなと思います。大学生、大学院生が困っているとついコメントしたくなるとか、そういったことが学生さんたちの為になっているだけでなく、本人にとっても『自分の経験が社会に役立てられた』という満足感であったり、自己肯定感だったりに繋がっているのではないでしょうか。

コミュニティの運営を続けていくなかで、人と人とのつながりを通して『自分にとってのアタリマエが、誰かにとっての価値になる』ことはたくさんあるんだなって改めて感じまして、理系とーくラボの合言葉のひとつとして大事にしています。」

「楽しく生きる人を増やしたい。研究でつらい想いをしている人を減らしたい」 ── 立ち上げのきっかけとRTLに懸ける想い

「人と人との良いつながりをつくること」を重要視しているともよしさん。そう思うようになったのは、大学院生時代の経験がきっかけだったと話す。

「理系とーくラボの立ち上げは、大学院生のころに感じた『仲間って大切だな』って想いがきっかけでして。自分ひとりで研究しているときって、視野が狭くなってしまい、なかなかうまくいかないんです。一方で、過去に直面した困難や、それを乗り越えたきっかけを振り返ってみると、隣の研究室の人と議論したときに生まれたアイデアがきっかけになっていたりとか、仲間の存在が大きかったなっていつも思うんですよね。特に、その時々に応じた専門家と出会えると、そこでうまくいったりするなって感じたんです。

そういったことがいっぱいあり、『ひとりでできることは限られているな』『専門家とつながっておくことって大事だな』と感じまして、そういった想いがきっかけとなってこのコミュニティをつくりました。ぼく自身も仲間が増えて、それだけじゃなくて仲間どうしでもつながりが増えていったらいいなって思ったんです。」

さらに、ともよしさんはこう続ける。

「究極的には、理系とーくラボを通して『楽しく生きる人を増やしたい』『つらい想いをしている人を減らしたい』と思ってるんです。研究者ってみんな自分の興味に従って、それを突き詰めて生きてると思うんですけど、自分が没頭している好きなことって、ほかの誰かにとっての価値であったりするんです。でもひとりで研究していると、それが見えにくくなってしまいます。

研究ってゴールも道筋も見えない暗闇のなかを走るようなものです。しかも、それがお金になるかもわからない世界です。だから、実際に成功してみせるまでは人から価値をわかってもらいにくくて、つらくなってしまうこともあると思います。そんなとき、別の誰かと話す機会があれば解決の糸口が見つかることもありますし、逆に他の誰かの悩みを解決してあげられて、自分も前向きになれるようなこともあります。

だから、『楽しい』とか『面白そう』とか『好き』とか、そんな想いに忠実に没頭している人たちを集めて、その価値が適切な人に渡る仕組みをつくれば、みんながもっと楽しく生きられるやさしい世界になるかなって思ったんです。」

そんなともよしさんの想いは、理系とーくラボが掲げるビジョンなどに反映されている。それぞれが自分の興味に没頭できて、それを価値として活かしあえるコミュニティであれるように、以下のような理念を掲げてメンバーとともにアップデートし続けているという。

▲ 理系とーくラボの「About us」。ここで掲げる理念はメンバーたちと話し合いをしながら、日々アップデートを重ねている。

「そんな理想を実現するためにも、お互いに価値があると信じ合うことがまず大事だと思っています。メンバーをリスペクトし合って、お互いの価値を探し合い、活かし合う文化をつくっていきたいですね。」

「もっと大きな価値を提供できるコミュニティにしていきたい」― 今後の目標や展望

理系とーくラボに所属しているメンバーの数は、2022年3月現在で約80名ほどだ。しかし、「もっともっとメンバーを増やして、大きな組織にしていきたい」と、ともよしさんは語る。

「メンバーが増えていけば、もっともっとやれることだったり提供できる価値だったりが増えてくるはずです。誰かが何かをやりたいと思ったときに、すぐに仲間が見つかるとか、欲しい情報がすぐ見つかるとか。

それに、メンバーが増えて資金力がついてくれば、もっとやれることも増えてきます。『こんな研究したいんだけど』という想いを持った人が現れたときに、理系とーくラボから研究費を投資できるようになりますし、メンバーから応援金を募って誰かの夢を実現する『科学のクラウドファンディング』みたいな動きもできるようになってくると思うんです。

研究には時間がかかりますし、科学は好きなのにお金の面も含めていろいろな理由で研究を諦めてしまっている人は多いので、そういう人たちに科学を楽しんでもらえる環境をつくれたらいいなと思っています。

ゆくゆくは、科学が好きな人が何万人も集まるコミュニティ、年間で何千万円、何億円を動かせるような組織にして、メンバーの夢や理想の生き方を実現できるような力をつけることが、最終的に実現したい目標です。」

「つらいときほど、『人と話すこと』を大切にして欲しい」

理系とーくラボをもっともっと大きなコミュニティに育てることで、みんなが自分らしく、ありのままでいながら自分の価値に気付き、自分の価値を発揮できる場所にしていきたい。 ── そんな想いを掲げるともよしさんは、自分自身がつらかったときのことを振り返り、次のように語っている。

「研究がうまく行かず、つらくなってしまうこともあると思います。そんなつらいときこそ、『人と話すこと』を大切にして欲しいです。人と話すと視野が広がって新しい解決策が見えてくることもありますし、自分の考え方がまとまって整理できたりもします。

それにこれって、研究だけではなくて自分の進路だったり生き方だったりの悩みでもおんなじことだと思うんです。自分のなかだけでつらいことを抱え込んでいると、だんだん自分の価値や好きなこと、得意なことが見えなくなってしまいます。『もっと頑張らなきゃ』って思うときほど、『人と話すこと』『感情を自分の外に出すこと』を大切にして欲しいなって思います。」

理系とーくラボには、いろいろなキャリアや生き方をしている先輩たちがたくさんいる。そして、ともよしさんと同じように「つながりの大切さ」や「研究のつらさと楽しさ」を知る人たちがたくさんいて、みんながもっと楽しく生きられるような場所をつくりたいと集まっている。

もし研究などでつらい想いをしている人がいたら、ぜひうちに飛び込んでもらって、そんな想いをぶちまけてみてください。きっと、つらいことが解消されたり、これまでよりも自分の価値観とかやりたいことが明確になったりして、もっと楽しく生きられるようになるはずです。ぜひ理系とーくラボに来て、いろんなことを話せる良い仲間を見つけて欲しいです。

もちろんつらい想いをしてる人だけじゃなくて、科学が好きな人や何か実現したい夢や野望がある方は、ぜひ理系とーくラボで一緒に楽しいことをやりましょう。ぼくたちはみんなの夢を応援し合える関係を目指しています。入ってくれたあなたの夢をぼくたちは全力で応援します。みんなの夢を応援し合って、一緒にやりたいことを実現していきましょう。

世界中のすべての人に、生きてる価値があると信じてます。ぜひあなたの価値を、あなたの力を貸してください! お互いの価値を活かし合って、楽しい生き方を一緒に実現していきましょう。僕たちと一緒に、楽しい世界をつくりにいきましょう!」

「あなたにとってのアタリマエも、誰かにとってはタカラモノ」── “科学”という切り口から「ひとりひとりの好き」を「みんなの価値」へと変えていこうというともよしさんの挑戦は、いまやコミュニティメンバーみんなの挑戦へと広がりを見せている。

新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の生活様式も価値観も変化しつつある令和の現代。人と人とのつながりの大切さを改めて感じている人は多いはずだ。この輪がもっともっと大きく広がって、自分の興味に没頭して楽しく生きられる人が増えて欲しいと願う。

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取材・文・写真 : 充紀


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