たまらなく愛おしくなった瞬間
バスの中って、不思議だ。
音の聞こえ方がなんとなくいつもと違う気がする。
どの音も、なんだか近く感じるというか。
私は、バスが結構好きだ。
◆ ◆ ◆
学校で遠足に行った。
通信制高校にも一応希望者だけが参加できる形の遠足はある。
高速バスに三時間ほど揺られて着いたのは、山梨の昇仙峡。
ほうとうを打ったり、マウンテンバイクに乗ったりして一日を過ごした。
友達はいなかったけど、みんなフレンドリーに接してくれて、すごく楽しかった。
そして、その帰りのバス。
一日遊んだ疲れもあり、車内はまったりモードになっていた。
隣の席の子は眠っていた。
午後六時。
窓の外は、暗いというか、「黒」だった。
私たちは、まるでペンキを塗ったように真っ黒な窓に囲まれていた。
なんだか、世界から切り離されているような感覚になった。
走行音。
ぽつぽつ浮かんでは消える、誰かのおしゃべり。
お菓子の袋を開ける音。
前の席の男の子が、真っ黒な窓に顔を近づけて、外を見ようとしている。
その時、名前も歳も知らないその男の子が、バスに乗ってる30人くらいの名前も知らない人たちみんなが、たまらなく愛おしくなった。
なんでかはわかんないけど、すごく愛おしくて、ずっとこの時間が続けばいいのにって思った。
私たちは、世界から切り離されたかわいそうな一台のバスの中で、身を寄せ合っている。
そんな妄想をした。
◆ ◆ ◆
高速に入ると、街の光が見えるようになった。
隣の子が起きた。
ちょっとおしゃべりしてたら、SAに着いた。
その子と一緒にSAの中を回った。
さっき学校に友達はいないと書いたけど、もうその子とは友達になったのかもしれない。
大きくて、チーズが乗っかってる豪華なホットドッグを食べた。
またこんな旅がしたいと思った。